11/14 … 講義なし(学園祭)
この講義は教科書の2章を終えた後は、4章、その後は7章の内容を学びます。
理想気体においては、
\(pV = NkT\)
が成り立つ。加えて、\(p, V, N,
T\)は系の状態を決める状態量であり、積分経路に依存しない積分が可能(可逆過程では元の状態に戻せるということ)
可逆過程とは、とてつもなくゆっくり変化させること。ゆっくりなため、変化の過程を追うことができ、元に戻すこともできる。
温度とはエネルギーである。なぜならば、
\(N \langle \epsilon_{\rm kin}\rangle =
\frac{3}{2}NkT\)
だから。\(\langle \epsilon_{\rm
kin}\rangle\)は運動エネルギーの粒子平均。
熱とは温度の変化を表す。すなわち、
\(\delta Q = CdT\)
を満たす。ただし、\(C\)は熱容量であり、比熱\(c\)を用いて\(C =
mc\)と表すことができる。
気体が膨張/圧縮するとき、外に仕事をする。気体に蓄えられる仕事をプラス、外にする仕事をマイナスと定義すると、仕事は
\(\delta W = - pdV\)
と書くことができる。粒子数の変化も考慮すると、仕事は下記のようになる。
\(\delta W = - pdV + \mu dN\)
熱はエネルギーの特別な形態であることを見た(理想気体においては、\(\langle \epsilon_{\rm kin} \rangle =
\frac{3}{2}kT\)であり、\(\delta Q = C
dT\)であるため[熱は温度を変化させる、温度はエネルギーの一種、したがって熱もエネルギーの一種、というロジック])。物理学において重要かつ基本的な法則の一つが、エネルギー保存則である。これは熱力学においても同様。多数の粒子から構成される巨視的な系の内部エネルギーを定義することができる。理想気体では粒子間の距離が十分に大きい希薄な気体を想定するため、ポテンシャルエネルギーは無視できる(ポテンシャルエネルギーは粒子間の距離に依存して、十分に大きい粒子間距離を想定しているため)。すなわち、理想気体では、粒子の全運動エネルギー\(N\epsilon_{\rm kin} =
\frac{3}{2}NkT\)を系の内部エネルギーとして定義できる(ここでは理想気体に限らず、一般的に内部エネルギーを考える)。この内部エネルギーに影響を与えるものは、仕事そして周囲と交換する熱である。特に微小な変化に着目することで、より明確にエネルギー保存則が成り立つであろう(微小な変化であれば、2乗の項などは無視できると想定可能なため)。
このエネルギー保存則を熱力学第1法則と呼び \[\begin{equation}
dU = \delta W + \delta Q
\end{equation}\] と表す。ただし、\(dU\)は内部エネルギーの微小変化、\(\delta W\)は仕事、\(\delta
Q\)は周囲と交換する熱である。ここで、仕事や熱は状態変化の過程に依存するか否かは定かでないため、微小変化を\(\delta\)を用いて表している(仕事はエネルギーの増加分のみ[温度\(T\)がどの値かには基本依存しない前提]、熱は温度の変化[これも温度の値は考えない]、つまりこれらは系の状態を一意に決める状態量ではないため、微小変化を\(\delta\)で表し、内部エネルギーは理想気体では温度で決まるため状態量でり、微小変化を\(d\)で表す。)。
この熱力学第1法則より、第1種の永久機関は存在しないことがわかる。第1種の永久機関とは、周囲に何も変化を残さずエネルギーを生成し続ける機関のことである。特に、エネルギー源なしで外部に対して仕事を行うものを言う。エネルギー源がないということは、\(\delta Q =
0\)であり、外部に対して仕事を行うならば\(\delta W = -pdV <
0\)である(可逆過程ならば)。熱力学第1法則より、\(dU = \delta W + \delta Q = -pdV + 0 <
0\)であり、これは系のエネルギーが0になるまで減少することはあれ、いずれはエネルギーが0の状態になり\(\delta W =
0\)となることを意味する。つまり、永久にエネルギーを生成し続ける第1種の永久機関は存在しない。
周囲と熱を交換しない場合の(断熱過程[\(\delta Q =
0\)])、理想気体の温度と体積の関係を考える。 \[\begin{equation}
\delta Q = 0
\end{equation}\] より、熱力学第1法則は \[\begin{equation}
dU = \delta W = -pdV
\end{equation}\] 一方、一般的に粒子数の変化を考えない場合、\(dU =
\frac{3}{2}NkdT\)より(この講義では基本この状況を考える)、 \[\begin{equation}
\frac{3}{2}NkdT = -pdV
\end{equation}\] を得る。
さらに\(pV = NkT\)より \[\begin{eqnarray}
\frac{3}{2}NkdT &=& -\frac{NkT}{V}dV \nonumber\\
\frac{3}{2} \frac{dT}{T} &=& - \frac{dV}{V}
\end{eqnarray}\]
となり、両辺初期状態から最終状態までの経路にて積分すると(変化の合計量を計算すると)、
\[\begin{eqnarray}
\frac{3}{2} \ln \frac{T}{T_0} &=& - \ln \frac{V}{V_0}
\nonumber\\
\end{eqnarray}\] を得る。\(pV =
NkT\)から \[\begin{equation}
\langle \frac{T}{T_0}\rangle^{\frac{5}{2}} = \frac{p_0}{p}
\end{equation}\] など他の関係式を得ることができる。上記の\(V\)と\(T\)、\(p\)と\(T\)の関係式は、理想気体の断熱方程式である。
作業物質が状態変化を経て初期状態に戻るような循環過程では、 \[\begin{equation}
\oint dU = 0
\end{equation}\] が成り立つはずである(\(dU =
\frac{3}{2}NkdT\)のため)。もしくは、系の状態を決める状態量は、循環過程を経ると元の状態に戻るため上記の式が成り立つ(すぐ後に、エントロピーの導出で利用する)。熱力学第1法則より、周囲から得た熱が仕事に変換されることを意味する(\(dU = \delta W + \delta Q = 0\)より、\(\delta Q = -\delta
W\)、熱が加えられたら[\(\delta Q >
0\)]、外に仕事を行っているということ(\(\delta W <
0\)))。以下では循環過程(熱力学における最重要事項の一つ)を見ていく。
理想気体を作業物質とする循環過程を考える。これはカルノーサイクルと呼ばれ、熱力学における基礎的な考え方を明らかにする(図2.1参照)。
過程I: 温度\(T_h\)のもとで体積を\(V_1\)から\(V_2\)まで等温膨張させる。等温過程では、\(pV = NkT\)より、 \[\begin{equation}
\frac{V_2}{V_1} = \frac{p_1}{p_2}
\end{equation}\]
が成り立つ。理想気体の場合、等温過程では気体の内部エネルギーは変化しない(\(U =
\frac{3}{2}NkT\)より)。したがって、エネルギーの変化量、仕事の変化量、熱の変化量には、
\[\begin{equation}
\Delta U_1 = \Delta W_1 + \Delta Q_1 = 0
\end{equation}\] という関係が成り立つであろう。また、\(\delta W = -pdV = - NkT
\frac{dV}{V}\)より、初期状態から終点状態までの総仕事量を足し算(積分)すると、
\[\begin{equation}
\Delta W_1 = -NkT \ln \frac{V_2}{V_1}
\end{equation}\] つまり、 \[\begin{equation}
\Delta Q_1 = -\Delta W_1 = NkT_h\ln \frac{V_2}{V_1}
\end{equation}\] となる。\(V_2 >
V_1\)より、\(\Delta Q_1 >
0\)である。\(\Delta
Q_1\)は熱浴から気体に与えられた熱量である。
過程II: 作業物質を\(V_2\)から\(V_3\)へ断熱膨張させる(\(\delta Q = 0\))。温度は\(T_h\)から\(T_c\)になるとする。断熱過程であるため、
\[\begin{equation}
\Delta U_2 = \Delta W_2
\end{equation}\] が過程中になりたつであろう。つまり、 \[\begin{equation}
\frac{3}{2}Nk dT = -p dV = - \frac{NkT}{V} dV
\end{equation}\]
が成り立ち、初期状態から終点状態までこの総変化量を積分すると、 \[\begin{equation}
\frac{V_3}{V_2} = \langle \frac{T_h}{T_c}\rangle^{\frac{3}{2}}
\end{equation}\] が成り立つ。断熱過程では\(\Delta Q_2 =
0\)であり、外へした仕事は内部エネルギーから奪われ、 \[\begin{equation}
\Delta W_2 = \Delta U_2 = \frac{3}{2}Nk (T_c - T_h) < 0
\end{equation}\] である。
過程III: 温度\(T_c\)のもとで、\(V_3\)から\(V_4\)まで等温圧縮させる。等温であるため、\(pV = NkT\)より \[\begin{equation}
\frac{V_4}{V_3} = \frac{p_3}{p_4}
\end{equation}\] である。等温であるため、\(\Delta U_3 = \Delta W_3 + \Delta Q_3 =
0\)かつ、\(\delta W = -
NkT_c\frac{dV}{V}\)であるから \[\begin{equation}
\Delta Q_3 = - \Delta W_3 = NkT_c \ln \frac{V_4}{V_3} < 0
\end{equation}\]
これが過程IIIにて熱浴が吸収した熱量である。すなわち、気体は熱を失う。
過程IV: \(V_4\)から\(V_1\)へ断熱圧縮する(温度は\(T_c\)から\(T_h\)に上がる)。断熱過程であるため、\(\Delta U_4 = \Delta W_4\)であり、\(dU = C_V dT = \frac{3}{2}Nk dT\)、\(\delta W = -pdV = - NkT\frac{dV}{V}\)より、
\[\begin{equation}
\frac{V_1}{V_4} = \left( \frac{T_c}{T_h}\right)^{\frac{3}{2}}
\end{equation}\] となる。\(\Delta Q_4 =
0\)より、\(\Delta W_4 = \Delta U_4 =
\frac{3}{2}Nk(T_h - T_c)\)である。
上記のすべての過程を合わせたサイクルにおいて、全エネルギーの収支は、
\[\begin{equation}
\Delta U_{\rm total} = \Delta Q_1 + \Delta W_1 + \Delta Q_2 + \Delta W_2
+ \Delta Q_3 + \Delta W_3 + \Delta Q_4 + \Delta W_4
\end{equation}\] であり、上記の式を代入すると、 \[\begin{equation}
\Delta U_{\rm total} = 0
\end{equation}\] であり、これは循環過程であることがわかる。
熱について考えてみる。カルノーサイクルでは\(\Delta Q_2 = \Delta Q_4 = 0\)であり、 \[\begin{equation}
\Delta Q_1 = -\Delta W_1 = NkT_h\ln \frac{V_2}{V_1}
\end{equation}\] \[\begin{equation}
\Delta Q_3 = - \Delta W_3 = NkT_c \ln \frac{V_4}{V_3} < 0
\end{equation}\] であった。さらに、 \[\begin{equation}
\frac{V_3}{V_2} = \langle \frac{T_h}{T_c}\rangle^{\frac{3}{2}}
\end{equation}\] \[\begin{equation}
\frac{V_1}{V_4} = \left( \frac{T_c}{T_h}\right)^{\frac{3}{2}}
\end{equation}\] より、 \[\begin{equation}
\frac{V_2}{V_1} = \frac{V_3}{V_4}
\end{equation}\] であり、\(\Delta
Q_1\)と\(\Delta
Q_3\)の関係式に代入すると、 \[\begin{equation}
\frac{\Delta Q_1}{T_h} + \frac{\Delta Q_3}{T_c} = 0
\end{equation}\]
が成り立つ。これはカルノーサイクルのみならず、可逆な循環過程で成り立つことが経験的に知られている。カルノーサイクルを可能な限り細かく区切ったサイクルとみなせば、
\[\begin{equation}
\oint \frac{\delta Q}{T} = 0
\end{equation}\] となる。
\[\begin{equation}
\oint \frac{\delta Q}{T} = 0
\end{equation}\] という式が成り立つならば、\(\frac{\delta
Q}{T}\)は経路に依存しない(任意の循環経路は無限小のカルノーサイクルで近似できるため[図2.3])。つまり\(\frac{\delta Q}{T}\)は完全微分であり、\(\frac{1}{T}\)は\(\delta Q\)の積分因子といえる。\(\frac{\delta
Q}{T}\)が完全微分であることは実験的にも検証されている。\(\frac{\delta
Q}{T}\)が経路に依存しないということは、 \[\begin{equation}
S(\vec{x}) - S_0(\vec{x}_0) = \oint_C \frac{\delta Q}{T} = 0
\end{equation}\] となるように、すなわち完全微分が\(\frac{\delta
Q}{T}\)となる巨視的な状態を決める状態量の一つである\(S\)が存在するであろう(つまり\(dS = \frac{\delta Q}{T}\)が成り立つ\(S\)が存在するはず)。この\(S\)は示量変数であり(\(\delta Q = CdT = mcdT\)より推測可能)、\(S\)をエントロピーという。つまり、 \[\begin{equation}
dS = \frac{\delta Q_{\rm rev}}{T}
\end{equation}\]
により定義される(可逆過程を考えているため、あえて\(\delta Q_{\rm rev}\)と明記)。
— (11/01はここから) —
これまで学んだキーパーツたち。
理想気体の状態方程式: \(pV = NkT\)
理想気体の内部エネルギー:
\(U = \frac{3}{2}NkT\)
熱力学第一法則: \(dU = \delta W + \delta
Q\)
仕事: \(\delta W = -pdV + \mu
dN\)
カルノーサイクルのおさらいと今日の内容
I: 等温過程(\(dT = 0\))のため、\(dU = 0\)。\(dU =
\delta W + \delta Q = -pdV + \delta Q = 0\)。\(S_1\)から\(S_2\)までの仕事の合計量は\(\delta W_1 = \int_{V_1}^{V_2}(-pdV) = -NkT_h \ln
\frac{V_2}{V_1}\)。熱は\(\delta Q_1 =
-\delta W = NkT_h \ln \frac{V_2}{V_1}\)。
III:
等温過程(\(dT = 0\))のため、\(dU = 0\)。\(dU =
\delta W + \delta Q = -pdV + \delta Q = 0\)。\(S_3\)から\(S_4\)までの仕事の合計量は\(\delta W_3 = \int_{V_3}^{V_4}(-pdV) = -NkT \ln
\frac{V_4}{V_3}\)。熱は\(\delta Q_3 =
-\delta W = NkT_c \ln \frac{V_4}{V_3}\)。
II:
断熱過程(\(\delta Q = 0\))のため、\(dU = \delta W\)。温度は\(T_h\)から\(T_c\)まで変化したので、 \(dU = \delta W_2 = \frac{3}{2}Nk(T_c -
T_h)\)。\(\delta Q_2 =
0\)
IV: 断熱過程(\(\delta Q = 0\))のため、\(dU = \delta W\)。温度は\(T_c\)から\(T_h\)まで変化したので、 \(dU = \delta W_4 = \frac{3}{2}Nk(T_h -
T_c)\)。\(\delta Q_4 =
0\)
上記の循環過程における仕事を全部足すと、 \[\begin{equation}
\delta W_{\rm tot} = -NkT_h \ln \frac{V_2}{V_1} + -NkT_c \ln
\frac{V_4}{V_3} + \frac{3}{2}Nk(T_c - T_h) + \frac{3}{2}Nk(T_h - T_c) =
-NkT_h \ln \frac{V_2}{V_1} + -NkT_c \ln \frac{V_4}{V_3}
\end{equation}\] となる。循環過程なので\(dU = 0\)。熱量の変化は、\(\delta Q_{\rm tot} = -\delta W_{\rm
tot}\)で計算できる。
断熱過程における状態変数間の関係式を計算すると、 \[\begin{equation}
dU = \frac{3}{2}NkdT = \delta W + \delta Q = -pdV + 0
\end{equation}\] より、 \[\begin{equation}
\frac{3}{2} \frac{dT}{T} = - \frac{dV}{V}
\end{equation}\] が成り立つ。状態\((V_1, T_1)\)から\((V_2,
T_2)\)まで変化したときの両辺の合計量は、 \[\begin{equation}
\frac{3}{2} \ln \frac{T_c}{T_h} = - \ln \frac{V_2}{V_1}
\end{equation}\] となる。
これを上記のカルノーサイクルにおける過程II(断熱過程)に利用すると、
\[\begin{equation}
\frac{3}{2} \ln \frac{T_c}{T_h} = - \ln \frac{V_3}{V_2}
\end{equation}\] となり、過程IV(断熱過程)に利用すると、 \[\begin{equation}
\frac{3}{2} \ln \frac{T_h}{T_c} = - \ln \frac{V_1}{V_4}
\end{equation}\] となる。つまり、 \[\begin{equation}
\frac{V_3}{V_2} = \frac{V_4}{V_1}
\end{equation}\] もしくは \[\begin{equation}
\frac{V_2}{V_1} = \frac{V_3}{V_4}
\end{equation}\]
を満たす。つまり、カルノーサイクルにより行われる仕事は、 \[\begin{equation}
\delta W_{\rm tot} = -NkT_h \ln \frac{V_2}{V_1} - NkT_c \ln
\frac{V_4}{V_3} = -Nk(T_h - T_c)\ln \frac{V_2}{V_1} = -(\delta Q_1 -
\delta Q_3)
\end{equation}\] とまとめることができる。
\(\delta W_{\rm tot}\)は \(T_h \ge T_c\)
より、負の仕事であり、負の仕事とはすなわち気体が外界へ仕事をしたことを意味する。カルノーサイクルは、熱を仕事に変える機関であるといえる。仕事に変換された熱量と吸収された熱量の比(=効率)を計算すると、
\[\begin{equation}
\eta = \frac{|\Delta W|}{\Delta Q_1} = \frac{\Delta Q_1 + \Delta
Q_3}{\Delta Q_1} = 1 + \frac{\Delta Q_3}{\Delta Q_1}
\end{equation}\] ここで、\(\delta Q_1 =
-NkT_h \ln \frac{V_2}{V_1}\)、\(\delta
Q_3 = NkT_c \ln \frac{V_2}{V_1}\)より、\(\frac{\delta Q_1}{T_h} + \frac{\delta
Q_3}{T_c}\)が成り立つ。これを利用すると、 \[\begin{equation}
\eta = 1 - \frac{T_c}{T_h} = \frac{T_h - T_c}{T_h}
\end{equation}\]
となり、温度差を上げれば効率が上がることがわかる。このカルノーサイクルが、最も効率の良い熱機関であることが後々示される(講義の進み具合によるかもしれない)。\(T_c =
0\)なら熱効率が1となる最適な熱機関が作れそうに見えるが、現実的には絶対零度に到達することは難しいとされている。
カルノーサイクルにおいて \[\begin{equation}
\frac{\delta Q_1}{T_h} + \frac{\delta Q_3}{T_c} = 0
\end{equation}\]
が成り立つことを見た。さらに、IIとIVは断熱過程のため、\(\delta Q_2 = \delta Q_4 =
0\)である。すなわち、\(\frac{\delta
Q}{T}\)は循環過程において変化せず \[\begin{equation}
\oint \frac{\delta Q}{T} = 0
\end{equation}\] という式を満たすことがわかる。この式は\(\frac{\delta
Q}{T}\)が経路に依存しない、すなわち完全微分であることを意味する(循環の仕方に依存せず、循環積分が0になるため)。言い換えるならば、\(\frac{\delta Q}{T}\)という量は、\(p, V, T, N,
U\)などを同様に、ゆっくり変化させて元に戻せる、各々の状態を定義する状態変数であることを意味する。したがって、
\[\begin{equation}
dS = \frac{\delta Q}{T}
\end{equation}\] となる状態量\(S\)が存在する(経路に依存しない =
ゆっくり変化させると元に戻る、\(dU =
\frac{3}{2}NkdT = \delta Q - pdV\)より、\(Q\)に関連した状態量はあるはず)。この\(S\)をエントロピーと呼ぶ。すなわち、 \[\begin{equation}
dU = \delta Q + \delta W = TdS - pdV
\end{equation}\] として熱力学第一法則を書き表すことができる。
レポート課題:
カルノーサイクルの過程I-IVにおける、外部とやり取りする仕事・熱を再度計算せよ。
(2025/11/27はここから)
これまで学んだ重要ポイント(の一部)は以下の通り \[\begin{equation}
pV = NkT
\end{equation}\] \[\begin{equation}
U = \frac{3}{2}NkT
\end{equation}\] \[\begin{equation}
dU = \delta W + \delta Q
\end{equation}\] \[\begin{equation}
\delta W = -pdV + \mu dN
\end{equation}\] \[\begin{equation}
\delta Q = TdS \ (dS = \frac{\delta Q}{T})
\end{equation}\]
孤立系の平衡状態では、\(\delta Q =
0\)、すなわち\(dS =
0\)(エントロピー一定)でありエントロピーは極値をもつ。経験的に、この極値が最大値であることが知られている。つまり、平衡状態に向かう不可逆過程ではエントロピーは増加して平衡に達したときに最大値をもつ。これが熱力学の第二法則であり、次のように書くことができる。
熱力学第二法則: 孤立系の平衡状態では、 \[\begin{equation}
dS = 0
\end{equation}\] \[\begin{equation}
S = S_{\rm max}
\end{equation}\] であり、不可逆過程では、 \[\begin{equation}
dS > 0
\end{equation}\]
である。系が周囲と熱交換する場合は、エントロピーが減少することもある(例えば等積変化[\(\delta W =
0\)]で、冷たい熱浴と熱交換する場合)。エントロピーは示量変数(\(dS = \delta Q/T = CdT/T = Nc dT/T\) [\(C\)は熱容量、\(c\)は比熱]のため)である。つまり部分系1,2があり、エントロピーはそれぞれ\(S_1\), \(S_2\)なら全体のエントロピーは\(S_1 + S_2\)。
例題: 昨年度の期末試験より
孤立系を考える。\(t\) を時間として、\(t = 0\)
では系が非平衡状態(不可逆過程)であり、時間が経つにつれて平衡状態に近づく状況を考える(つまり、\(t \in [0,
\infty)\)である状況を考える)。下記の[1]-[3]の関数のうち、エントロピー
\(S = S(t)\)
でありうるものを選び、その理由を答えよ。
[1] \(S(t)=1-exp(-t)\)
[2] \(S(t)=exp(-t)\)
[3] \(S(t)=(t-1)^2\)
ここまで得られた知見をまとめると、 \[\begin{equation}
dU = \delta Q + \delta W = TdS - pdV
\end{equation}\]
となる。さらに、粒子1つを追加するために必要なエネルギーを化学ポテンシャル\(\mu\)といい、これも考慮すると \[\begin{equation}
dU = \delta Q + \delta W = TdS - pdV + \mu dN
\end{equation}\] となる。これはつまり、\(U = U(S, V, N,
...)\)として内部エネルギー\(U\)は\(S, V,
N\)の関数であることを意味している。ここから、 \[\begin{equation}
T = \frac{\partial U}{\partial S}|_{V, N, ...}
\end{equation}\] として\(T, p,
\mu\)を求めることができる。
粒子数が一定の理想気体のエントロピーを\(T\)、\(V\)の関数として計算する。理想気体では\(U =
\frac{3}{2}NkT\)であるため、粒子数一定では以下の式が成り立つ。
\[\begin{eqnarray}
\frac{3}{2}NkdT &=& TdS - pdV \nonumber\\
\frac{3}{2}Nk \frac{dT}{T} &=& dS - Nk \frac{dV}{V}
\end{eqnarray}\] 以下の式にもとづき、初期状態\((S_0, V_0, T_0)\)から最終状態\((S, V, T)\)までの積分を考えてみる。 \[\begin{equation}
dS = \frac{3}{2}Nk\frac{dT}{T} + Nk\frac{dV}{V}
\end{equation}\]
\[\begin{equation}
S - S_0 = \frac{3}{2} Nk \ln \frac{T}{T_0} + Nk \ln \frac{V}{V_0} = Nk
\ln \left( \left( \frac{T}{T_0}\right)^{\frac{3}{2}}
\left(\frac{V}{V_0}\right) \right)
\end{equation}\] を得る。
圧力と温度を用いてエントロピーを表すと、 \[\begin{equation}
S - S_0 = Nk \ln \frac{T}{T_0} + Nk \ln \frac{V}{V_0} = Nk \ln \left(
\left( \frac{T}{T_0}\right)^{\frac{5}{2}} \left(\frac{p_0}{p}\right)
\right)
\end{equation}\] となる。
エントロピーは示量変数であることは、 \[\begin{equation}
S = Nk \left( s_0 + \ln \frac{T}{T_0} + \ln \frac{V}{V_0} \right) = Nk
\ln \left( \left( \frac{T}{T_0}\right)^{\frac{5}{2}}
\left(\frac{p_0}{p}\right) \right)
\end{equation}\]
と表すことができることからも明らかである(ただし、\(Nks_0 = S_0\))。
レポート課題:
粒子数一定のとき、理想気体のエントロピーを計算せよ。
エントロピー\(S\)は系の状態を一意に決める状態量のひとつである。その他の状態量は熱力学第一法則にでてくる以下の変数たちである。
\[\begin{equation}
dU = -pdV + TdS + \mu dN
\end{equation}\]
この状態量のうち、解釈が曖昧なのはエントロピーのみであろう。エントロピーは熱力学第二法則として法則があるほど重要な状態量である。以下が熱力学第二法則(再掲)
孤立系の平衡状態では、 \[\begin{equation}
dS = 0
\end{equation}\] \[\begin{equation}
S = S_{\rm max}
\end{equation}\] であり、不可逆過程では、 \[\begin{equation}
dS > 0
\end{equation}\]
以下、エントロピーの意味についてみていく。
以下、統計的な見方と現象論的な見方を結びつけるのが熱力学第2法則であり、熱力学第二法則は、孤立系はすべて平衡状態に向かって収束するという、よく知られた事実を表現したものであることを理解していく。
巨視的な平衡状態では、常に圧力、温度、体積のような巨視的な状態量は一定である(落ち着いている状態のため)。しかしながら、系の微視的状態は時間とともに激しく変化している(粒子の動きが止まっているわけではない[止まっていたら運動エネルギーが0で温度0])。つまり、同じ巨視的な状態量のもとで、多様な微視的状態が存在することを意味する。
ある巨視的状態と両立する微視的状態の数を\(\Omega\)とする。容器の体積\(V\)を均一に占める気体の微視的状態の数\(\Omega\)は、容器の一部の小さな体積を占める\(\Omega\)よりも多い(実現しうる位置の範囲が大きいため[0m-1mより、0m-10mの範囲の方が広い])。\(N\)個の粒子の巨視的状態を体積\(V\)とすると、1個の粒子が占めることができる微視的状態の数\(\Omega(V)\)は、体積\(V\)に比例するであろう(実現しうる位置の範囲が大きいことから)。\(N\)個の独立な粒子の場合(理想気体の場合)、\(\Omega(V) \propto
V^N\)となる(場合の数を考えればよい、サイコロの目の場合の数は2個だと\(6^2\))。半分の体積を占める場合は\(\Omega(V) \propto
\frac{V^N}{2^N}\)となり、体積\(V\)を占めるときよりも微視的状態の数は\(\frac{1}{2^N}\)乗少ない。アボガドロ数と同じ桁の数の粒子があれば、\(N \propto 10^{23}\)であり、\(\frac{1}{2^N}\)乗少ない微視的状態の数とはほぼ存在しないことを意味する。
すると、体積\(V\)の容器を満たすように広がった気体の微視的状態の数は\(\Omega(V)\propto V^N\)であり、体積\(V/2\)に固まって存在する気体の微視的状態の数は\(\Omega(\frac{V}{2})\propto
\frac{V^N}{2^N}\)となり、\(N\to\infty\)にて、\(\Omega(V) \gg
\Omega(\frac{V}{2})\)である。これは数多に存在する微視的状態において、容器の一部に固まって気体が存在することはほぼ実現し得ないことを意味する。言い換えるならば、容器のうち割合\(q\in[0,1)\)に偏って気体が局在することはない。なぜならば、局在する微視的状態の数は全体的に満遍なく存在する微視的状態の数より\(q^N\)だけ少なく、粒子数の十分多い状況では(\(N\to\infty\))局在する確率は限りなく小さいといえる。つまり、孤立系はすべて平衡状態に向かって収束するというものである。
一方、熱力学第二法則は、エントロピーは平衡状態に向かうにつれて最大値に近づくことを述べている。上記もまた平衡状態では気体の粒子は満遍なく存在する微視的状態の数が最も多い状態に変化していくことを意味している。言い換えるならば、可能な微視的状態が最も大きい\(\Omega_{\rm
max}\)をもつ巨視的状態が熱平衡状態に相当する。すなわち、どちらも孤立系の平衡状態で最大値に近づいていくことから、エントロピーと微視的状態の数は関係性があることが予想される。
エントロピーと微視的状態の数の関係性を考えてみる。2つの独立した系が存在するとき、微視的状態の全体数は\(\Omega_{\rm tot} =
\Omega_{1}\Omega_{2}\)として計算できる(例えば2つサイコロを投げたときの目の数を想定すれば掛け算することは自然であろう)。一方、2つの独立した系のエントロピーは足し算的に\(S_{\rm tot} = S_1 +
S_2\)と書くことができる(示量変数のため[\(U = U(V, S, N)\)となり、\(V, S,
N\)は示量変数])。つまり、関係性がある微視的状態の数とエントロピーはそれぞれ\(\Omega_{\rm tot} =
\Omega_{1}\Omega_{2}\)、\(S_{\rm tot} =
S_1 + S_2\)であることから、 \[\begin{equation}
S \propto \log\Omega
\end{equation}\]
が成り立つべきであることがわかる。興味深い点は、エントロピーは巨視的変数、微視的状態の数は微視的変数であり、ミクロとマクロをつなぐ式であることがわかる。また、平衡状態がエントロピー最大であることから、平衡状態とは最も可能な微視的状態の数が多い状態であることを意味する。したがって熱力学第二法則は、巨視的な孤立系は最も可能性の高い、つまり可能な微視的状態が最も多い状態になろうとする、と言い換えることもできる。
系が、粒子数と化学ポテンシャルが各々\(N_i\)、\(\mu_i\)である\(K\)種類の粒子から構成されているとする。熱力学第一法則より、
\[\begin{equation}
dU = TdS - pdV + \sum_{i = 1}^K\mu_idN_i
\end{equation}\] が成り立つ。
これはすなわち示量状態量である\(U\)は、示量状態量\(S\), \(V\), \(N_1\), …,
の関数であらされていることを意味している。示量状態量は系の大きさに依存する。そのため、
\[\begin{equation}
U(\alpha S, \alpha V, \alpha N_1, ..., \alpha N_K) = \alpha U(S, V, N_1,
..., N_K)
\end{equation}\] 示強変数は、系の大きさに依存しないため、 \[\begin{equation}
T(\alpha S, \alpha V, \alpha N_1, ..., \alpha N_K) = T(S, V, N_1, ...,
N_K)
\end{equation}\] である。
いま、\(\alpha = 1 + \epsilon \ (\epsilon
\ll 1)\)としてテーラー展開すると、 \[\begin{equation}
U((1+\epsilon) S, (1+\epsilon) V, (1+\epsilon) N_1, ..., (1+\epsilon)
N_K) = U(S, V, N_1, ...) + \frac{\partial U}{\partial S}\epsilon S +
\frac{\partial U}{\partial V}\epsilon V + \frac{\partial U}{\partial
N_1}\epsilon N_1 + ...
\end{equation}\] を得る。
また、熱力学第一法則の式より\(T =
\frac{\partial U}{\partial S}\)、\(-p =
\frac{\partial U}{\partial V}\)、\(\mu_i = \frac{\partial U}{\partial
N_i}\)であるため、 \[\begin{equation}
U((1+\epsilon) S, ... ) = U(S, V, N_1, ...) + \epsilon (TS - pV +
\sum_i\mu_iN_i)
\end{equation}\] を得る。さらに、 \[\begin{equation}
U(\alpha S, \alpha V, \alpha N_1, ..., \alpha N_K) = \alpha U(S, V, N_1,
..., N_K)
\end{equation}\] であるから、\(U((1+\epsilon) S, ... ) = (1 +
\epsilon)U\)。合わせて、オイラー方程式 \[\begin{equation}
U = TS - pV + \sum_i\mu_iN_i
\end{equation}\] を得る。
さらにこの全微分を計算すると、 \[\begin{equation}
dU = TdS - pdV + \sum_i \mu_idN_i + SdT - Vdp + \sum_iN_id\mu_i
\end{equation}\] となる。熱力学第一法則より、 \[\begin{equation}
dU = TdS - pdV + \mu_idN_i
\end{equation}\] であった。したがって、 \[\begin{equation}
0 = SdT - Vdp + \sum_iN_id\mu_i
\end{equation}\]
というギブス-デュエムの関係を得る。これはすなわち、示強状態量である\(S\)、\(V\)、\(N\)は、ギブス-デュエムの関係を満たす必要があり、各々独立にはきまらないことを示している。
(2025/12/05はここから)
先週のおさらい
熱力学第二法則
\(S = k \log\Omega\) ->
エントロピーはミクロとマクロをつなぐ変数
オイラー方程式
ギブスデュエムの関係
\[\begin{equation}
U = \frac{3}{2}NkT
\end{equation}\] \[\begin{equation}
dU = \delta W + \delta Q
\end{equation}\] \[\begin{equation}
\delta W = -pdV + \mu dN
\end{equation}\] \[\begin{equation}
\delta Q = TdS \ (dS = \frac{\delta Q}{T})
\end{equation}\]
—-以下はレポート課題のため、さっくりと—-
理想気体のエントロピーを再度計算する。 \[\begin{equation}
dU = \frac{3}{2}NkdT = TdS - pdV
\end{equation}\] より、 \[\begin{equation}
dS = \frac{3}{2}NkdT + \frac{p}{T}dV = \frac{3}{2}\frac{Nk}{T}dT +
\frac{Nk}{V}dV
\end{equation}\] 初期状態から最終状態まで積分して、 \[\begin{equation}
S - S_0 = N(s - s_0) = Nk \frac{3}{2} \ln \frac{T}{T_0} + Nk \ln
\frac{V}{V_0} = Nk \ln \left( \frac{T}{T_0} \right)^{\frac{3}{2}} \left(
\frac{V}{V_0} \right) = \ln \left( \frac{T}{T_0} \right)^{\frac{5}{2}}
\left( \frac{p_0}{p} \right)
\end{equation}\]
これを利用して、理想気体の化学ポテンシャルが\(T\)と\(p\)の関数としてかけることを示す。
ギブス-デュエムの関係から、 \[\begin{equation}
0 = SdT - Vdp + Nd\mu
\end{equation}\] であるため、 \[\begin{equation}
d\mu(p, T) = -\frac{S(p,T)}{N}dT + \frac{V(p,T)}{N}dp
\end{equation}\]
と書き直すことができる。さきほど計算したエントロピーを代入して[上記のエントロピーの計算では粒子数が一定を想定
→
粒子数の変化は、他の変数の変化よりもさらにゆっくりなことを想定していればこの計算は妥当]、\(V = NkT/p\)より、 \[\begin{eqnarray}
d\mu(p, T) = -\left(ks_0 + k \ln \left( \frac{T}{T_0}
\right)^{\frac{3}{2}} \left( \frac{V}{V_0} \right)\right)dT +
kT\frac{dp}{p} = -\left(ks_0 + \ln k\left( \frac{T}{T_0}
\right)^{\frac{5}{2}} \left( \frac{p_0}{p} \right) \right)dT +
kT\frac{dp}{p}
\end{eqnarray}\]
(以下はレポート課題)初期状態から最終状態まで積分する。このとき、\(\ln p
dT\)の積分を避けるため(互いに関係するため)、\(p = p_0\)において\(T\)を\(T_0\)から\(T\)まで上げる経路1、\(T = T\)において\(p\)を\(p_0\)から\(p\)まで上げる経路を考える (\(d\mu\)は完全微分であり、経路に依存しない)。
\[\begin{eqnarray}
\mu(p, T) - \mu(p_0, T_0) = -ks_0(T - T_0) - k \frac{5}{2}\int \ln T dT
+ k \frac{5}{2}(T - T_0) \ln T_0 + kT\ln \frac{p}{p_0}
\end{eqnarray}\] 最終的に、 \[\begin{equation}
\mu(p, T) = \mu_0(p, T) - s_0k(T - T_0) - \frac{5}{2}kT \ln
\frac{T}{T_0} + \frac{5}{2}k(T - T_0) + kT\ln \frac{p}{p_0}
\end{equation}\] を得る。化学ポテンシャルは\(p,
T\)の関数として書くことができ、1粒子を加えるために必要なエネルギーを表す。
1: 例2.6を自分で計算せよ。
2: 問題2.3を解け。