熱力学第1法則

 熱はエネルギーの特別な形態であることを見た(理想気体においては、\(\langle \epsilon_{\rm kin} \rangle = \frac{3}{2}kT\)であり、\(\delta Q = C dT\)であるため)。物理学において重要かつ基本的な法則の一つが、エネルギー保存則である。これは熱力学においても同様。多数の粒子から構成される巨視的な系の内部エネルギーを定義することができる。理想気体では粒子間の距離が十分に大きい希薄な気体を想定するため、ポテンシャルエネルギーは無視できる(ポテンシャルエネルギーは粒子間の距離に依存して、十分に大きい粒子間距離を想定しているため)。すなわち、理想気体では、粒子の全運動エネルギー\(N\epsilon_{\rm kin} = \frac{3}{2}NkT\)を系の内部エネルギーとして定義できる(ここでは理想気体に限らず、一般的に内部エネルギーを考える)。この内部エネルギーに影響を与えるものは、仕事そして周囲と交換する熱である。特に微小な変化に着目することで、より明確にエネルギー保存則が成り立つであろう(微小な変化であれば、2乗の項などは無視できると想定可能なため)。このエネルギー保存則を熱力学第1法則と呼び \[\begin{equation} dU = \delta W + \delta Q \end{equation}\] と表す。ただし、\(dU\)は内部エネルギーの微小変化、\(\delta W\)は仕事、\(\delta Q\)は周囲と交換する熱である。ここで、仕事や熱は状態変化の過程に依存するか否かは定かでないため、微小変化を\(\delta\)を用いて表している。

 一方、全エネルギーの変化は初期状態、最終状態のみに依存するため、全微分である。仕事や熱は過程に依存するであろう。第1章で見たように、仕事は可逆過程では\(\delta W = -pdV\)、不可逆過程では\(\delta W = 0\)であったことから(無重量の壁を有する容器を想定していた)、過程に依存する。同様に、\(\delta Q = C dT\)も可逆過程でのみ議論可能な関係式である。ただし、熱力学第1法則\(dU = \delta W + \delta Q\)は常に正しい。

 この熱力学第1法則より、第1種の永久機関は存在しないことがわかる。第1種の永久機関とは、周囲に何も変化を残さずエネルギーを生成し続ける機関のことである。特に、エネルギー源なしで外部に対して仕事を行うものを言う。エネルギー源がないということは、\(\delta Q = 0\)であり、外部に対して仕事を行うならば\(\delta W = -pdV < 0\)である(可逆過程ならば)。熱力学第1法則より、\(dU = \delta W + \delta Q = -pdV + 0 < 0\)であり、これは系のエネルギーが0になるまで減少することはあれ、いずれはエネルギーが0の状態になり\(\delta W = 0\)となることを意味する。つまり、永久にエネルギーを生成し続ける第1種の永久機関は存在しない。

例2.1 内部エネルギーと全微分

 理想気体の内部エネルギーを計算する。1粒子の平均運動エネルギーは\(\langle \epsilon_{\rm kin} \rangle= \frac{3}{2}kT\)であることは見てきたとおりであり、 \[\begin{equation} pV = NkT = \frac{2}{3}N\langle \epsilon_{\rm kin} \rangle \end{equation}\] を満たす。また、理想気体とは、粒子間の距離が十分に大きく、ポテンシャルエネルギーは無視できる状況を考える。つまり、理想気体の内部エネルギーは、粒子の運動エネルギーにより決まる。したがって、理想気体の内部エネルギー\(U\)は、 \[\begin{equation} U = N\langle \epsilon_{\rm kin} \rangle = \frac{3}{2}NkT \end{equation}\] である。理想気体の熱容量を計算する。熱力学第1法則から、 \[\begin{equation} dU = \delta W + \delta Q \end{equation}\] ここで、理想気体を含む体積一定(等積変化 \(dV = 0\))の容器を考える。温度が\(dT\)だけ変化した場合、\(dW = -pdV = 0\)より、 \[\begin{equation} dU = \delta Q = C_V(T)dT \end{equation}\] 理想気体ではある温度の範囲内では比熱(=熱容量)は一定として考えることができるため(これはおそらく実験的な結果)、両辺を積分すると、 \[\begin{equation} U(T) - U(T_0) = C_V(T - T_0) \end{equation}\] となる。\(U = \frac{3}{2}NkT\)より、理想気体の熱容量は、\(C = \frac{3}{2}Nk\)であることがわかる。同様に、\(C_V = Nc_v\)として比熱\(c_v\)を定義すると、比熱は\(c_v = \frac{3}{2}k\)である。一般的に、体積一定の元での熱容量は、\(U = U(T, V)\)の元、 \[\begin{equation} dU = \frac{\partial U}{\partial T}|_V dT + \frac{\partial U}{\partial V}|_T dV \end{equation}\] であり、\(dV = 0\)より \[\begin{equation} C_V = \frac{\partial U}{\partial T}|_V \end{equation}\] として求めることができる。

例2.2 理想気体の断熱方程式

 周囲と熱を交換しない場合の(断熱過程)、理想気体の温度と体積の関係を考える。 \[\begin{equation} \delta Q = 0 \end{equation}\] より、熱力学第1法則は \[\begin{equation} dU = \delta W = -pdV \end{equation}\] 一方、一般的に\(dU = C_VdT\)より(NOTE: この式は後にエントロピー\(S\)という概念を用いて、\(\delta Q = TdS\)となることなどを用いて示すことができるが、今のところはこの式は成立しているものと思ってもらいたい)、 \[\begin{equation} C_VdT = -pdV \end{equation}\] を得る。さらに\(pV = NkT\)より \[\begin{eqnarray} C_VdT &=& -\frac{NkT}{V}dV \nonumber\\ C_V \frac{dT}{T} &=& -Nk \frac{dV}{V} \end{eqnarray}\] となり、両辺初期状態から最終状態までの経路にて積分すると、 \[\begin{eqnarray} C_V \ln \frac{T}{T_0} &=& -Nk \ln \frac{V}{V_0} \nonumber\\ \end{eqnarray}\] \(C_V = \frac{3}{2}Nk\)より、 \[\begin{equation} \langle \frac{T}{T_0}\rangle^{\frac{3}{2}} = \frac{V_0}{V} \end{equation}\] を得る。\(pV = NkT\)から \[\begin{equation} \langle \frac{T}{T_0}\rangle^{\frac{5}{2}} = \frac{p_0}{p} \end{equation}\] など他の関係式を得ることができる。上記の\(V\)\(T\)\(p\)\(T\)の関係式は、理想気体の断熱方程式である。

 熱力学第1法則は可逆過程でも不可逆過程でも成り立つ(理想気体であれば\(U = \frac{3}{2}NkT\)であり、変化の仕方によらず温度変化に依存したエネルギー変化が生じるであろう[粒子数一定を想定])。すなわち、 \[\begin{equation} dU = \delta W_{\rm rev} + \delta Q_{\rm rev} = \delta W_{\rm irr} + \delta Q_{\rm irr} \end{equation}\] 加えて、例1.3では等温過程での可逆過程と不可逆過程との違いを見た。等温かつピストンに外力\(\vec{F}\)が加わった状況にて、外力を急に0にすると、ピストンは動く。しかしながら、理想的に無重量のピストンを考えると、これは運動エネルギーを得ることはなく、外へ仕事をしないのであった。一方、可逆的に気体の体積を変化させる場合、外へ仕事をすることを見た。つまり、不可逆過程では何かしらのエネルギーの損失が生じるため、可逆過程のほうが不可逆過程よりも系のする仕事の絶対値は大きい。一方、同様の理由により圧縮に必要なエネルギーの量は、不可逆過程のほうが大きい。つまり、 \[\begin{equation} \delta W_{\rm irr} > \delta W_{\rm rev} = -pdV \end{equation}\] が成り立つ(外に仕事をする場合は、\(\delta W_{\rm rev} < 0\)であることに注意)。熱力学第1法則より、 \[\begin{equation} \delta Q_{\rm irr} < \delta Q_{\rm rev} \end{equation}\] となる(不可逆過程の場合、仕事の一部が常に系の外へ熱として放出され、これは負の熱として表す)。

 作業物質が状態変化を経て初期状態に戻るような循環過程では、 \[\begin{equation} \oint dU = 0 \end{equation}\] が成り立つはずである。熱力学第1法則より、周囲から得た熱が仕事に変換されることを意味する。循環過程を見ていく。

— (11/26はここから) —

 (11/19のおさらい)

 熱力学第一法則(=エネルギー保存則)
\[\begin{equation} dU = \delta W_{\rm rev} + \delta Q_{\rm rev} = \delta W_{\rm irr} + \delta Q_{\rm irr} \end{equation}\] は、可逆過程、不可逆過程どちらでも成り立つ。内部エネルギーの変化分は、外部に行った(行われた)仕事と加えられた(奪われた)熱により決まるというものである。可逆過程、不可逆過程どちらでも成り立つ理由としては、例えば理想気体ならば\(U = \frac{3}{2}NkT\)であり、\(N = \rm{const.}\)ならば、内部エネルギーの変化量は温度の変化量のみに依存しているためであり、その過程には依存しないことからわかる。加えて、何かしらの変化を経て最初の状態に戻る循環過程において、温度に変化がなければ内部エネルギーに変化がない、すなわち \[\begin{equation} \oint dU = 0 \end{equation}\] を満たすこともわかる。一方、熱力学第一法則より、循環過程においても周囲との仕事や熱のやり取りは行っているはずであり、それを以下で見ていく。

カルノーサイクルとエントロピー

 理想気体を作業物質とする循環過程を考える。これはカルノーサイクルと呼ばれ、熱力学における基礎的な考え方を明らかにする(図2.1参照)。

過程I: 温度\(T_h\)のもとで体積を\(V_1\)から\(V_2\)まで等温膨張させる。等温過程では、 \[\begin{equation} \frac{V_2}{V_1} = \frac{p_1}{p_2} \end{equation}\] が成り立つ(\(pV = NkT\)より)。理想気体の場合、等温過程では気体の内部エネルギーは変化しない(\(U = \frac{3}{2}NkT\)より)。したがって、エネルギーの変化量、仕事の変化量、熱の変化量には、 \[\begin{equation} \Delta U_1 = \Delta W_1 + \Delta Q_1 = 0 \end{equation}\] という関係が成り立つであろう。また、\(\delta W = -pdV = - NkT \frac{dV}{V}\)より、初期状態から終点状態まで積分すると、 \[\begin{equation} \Delta W_1 = -NkT \ln \frac{V_2}{V_1} \end{equation}\] つまり、 \[\begin{equation} \Delta Q_1 = -\Delta W_1 = NkT_h\ln \frac{V_2}{V_1} \end{equation}\] となる。\(V_2 > V_1\)より、\(\Delta Q_1 > 0\)である。\(\Delta Q_1\)は熱浴から気体に与えられた熱量である。

過程II: 作業物質を\(V_2\)から\(V_3\)へ断熱膨張させる(\(\delta Q = 0\))。温度は\(T_h\)から\(T_c\)になるとする。断熱過程であるため、 \[\begin{equation} \Delta U_2 = \Delta W_2 \end{equation}\] が過程中になりたつであろう。つまり、 \[\begin{equation} \frac{3}{2}Nk dT = -p dV = - \frac{NkT}{V} dV \end{equation}\] が成り立ち、初期状態から終点状態まで積分すると、 \[\begin{equation} \frac{V_3}{V_2} = \langle \frac{T_h}{T_c}\rangle^{\frac{3}{2}} \end{equation}\] が成り立つ。断熱過程では\(\Delta Q_2 = 0\)であり、外へした仕事は内部エネルギーから奪われ、 \[\begin{equation} \Delta W_2 = \Delta U_2 = C_V (T_c - T_h) = \frac{3}{2}Nk (T_c - T_h) < 0 \end{equation}\] である。

過程III: 温度\(T_c\)のもとで、\(V_3\)から\(V_4\)まで等温圧縮させる。等温であるため、\(pV = NkT\)より \[\begin{equation} \frac{V_4}{V_3} = \frac{p_3}{p_4} \end{equation}\] である。等温であるため、\(\Delta U_3 = \Delta W_3 + \Delta Q_3 = 0\)かつ、\(\delta W = - NkT_c\frac{dV}{V}\)であるから \[\begin{equation} \Delta Q_3 = - \Delta W_3 = NkT_c \ln \frac{V_4}{V_3} < 0 \end{equation}\] これが過程IIIにて熱浴が吸収した熱量である。すなわち、気体は熱を失う。

過程IV: \(V_4\)から\(V_1\)へ断熱圧縮する(温度は\(T_c\)から\(T_h\)に上がる)。断熱過程であるため、\(\Delta U_4 = \Delta W_4\)であり、\(dU = C_V dT = \frac{3}{2}Nk dT\)\(\delta W = -pdV = - NkT\frac{dV}{V}\)より、 \[\begin{equation} \frac{V_1}{V_4} = \left( \frac{T_c}{T_h}\right)^{\frac{3}{2}} \end{equation}\] となる。\(\Delta Q_4 = 0\)より、\(\Delta W_4 = \Delta U_4 = C_V(T_h - T_c)\)である。

 上記のすべての過程を合わせたサイクルにおいて、全エネルギーの収支は、 \[\begin{equation} \Delta U_{\rm total} = \Delta Q_1 + \Delta W_1 + \Delta Q_2 + \Delta W_2 + \Delta Q_3 + \Delta W_3 + \Delta Q_4 + \Delta W_4 \end{equation}\] であり、上記の式を代入すると、 \[\begin{equation} \Delta U_{\rm total} = 0 \end{equation}\] であり、これは循環過程であることがわかる。

 熱について考えてみる。カルノーサイクルでは\(\Delta Q_2 = \Delta Q_4 = 0\)であり、 \[\begin{equation} \Delta Q_1 = -\Delta W_1 = NkT_h\ln \frac{V_2}{V_1} \end{equation}\] \[\begin{equation} \Delta Q_3 = - \Delta W_3 = NkT_c \ln \frac{V_4}{V_3} < 0 \end{equation}\] であった。さらに、 \[\begin{equation} \frac{V_3}{V_2} = \langle \frac{T_h}{T_c}\rangle^{\frac{3}{2}} \end{equation}\] \[\begin{equation} \frac{V_1}{V_4} = \left( \frac{T_c}{T_h}\right)^{\frac{3}{2}} \end{equation}\] より、 \[\begin{equation} \frac{V_2}{V_1} = \frac{V_3}{V_4} \end{equation}\] であり、\(\Delta Q_1\)\(\Delta Q_3\)の関係式に代入すると、 \[\begin{equation} \frac{\Delta Q_1}{T_h} + \frac{\Delta Q_3}{T_c} = 0 \end{equation}\] が成り立つ。これはカルノーサイクルのみならず、可逆な循環過程で成り立つことが経験的に知られている。カルノーサイクルを可能な限り細かく区切ったサイクルとみなせば、 \[\begin{equation} \oint \frac{\delta Q}{T} = 0 \end{equation}\] となる。

  \[\begin{equation} \oint \frac{\delta Q}{T} = 0 \end{equation}\] という式が成り立つならば、\(\frac{\delta Q}{T}\)は経路に依存しない(任意の循環経路は無限小のカルノーサイクルで近似できるため[図2.3])。つまり\(\frac{\delta Q}{T}\)は完全微分であり、\(\frac{1}{T}\)\(\delta Q\)の積分因子といえる。\(\frac{\delta Q}{T}\)が完全微分であることは実験的にも検証されている。\(\frac{\delta Q}{T}\)が経路に依存しないということは、 \[\begin{equation} S(\vec{x}) - S_0(\vec{x}_0) = \oint_C \frac{\delta Q}{T} = 0 \end{equation}\] となるように、すなわち完全微分が\(\frac{\delta Q}{T}\)となる巨視的な状態を決める状態量の一つである\(S\)が存在するであろう(つまり\(dS = \frac{\delta Q}{T}\)が成り立つ\(S\)が存在するはず)。この\(S\)は示量変数であり(\(\delta Q = CdT = mcdT\)より推測可能)、\(S\)をエントロピーという。つまり、 \[\begin{equation} dS = \frac{\delta Q_{\rm rev}}{T} \end{equation}\] により定義される(可逆過程を考えているため、あえて\(\delta Q_{\rm rev}\)と明記)。

— (12/03はここから) —

 レポート課題: 上記のカルノーサイクルの過程I-IVにおける、外部とやり取りする仕事・熱を再度計算せよ。

 (11/26のおさらい)

 カルノーサイクルという循環過程を議論した。カルノーサイクルは等温膨張(圧縮)、断熱膨張(圧縮)を繰り返して初期状態に戻る循環過程である。理想気体において、内部エネルギー\(U\)\(U = \frac{3}{2}NkT\)であり、温度のみに依存する。したがって、初期状態に戻る変化では内部エネルギーの変化は0である。

 等温膨張(圧縮)は、\(dT = 0\)より\(dU = \frac{3}{2}NkdT\) (\(N\)は一定を想定) であり、熱力学第一法則より \[\begin{equation} dU = \delta W + \delta Q = 0 \end{equation}\] を満たす。 \[\begin{equation} \delta W = -pdV = -NkT\frac{dV}{V} \end{equation}\] より、初期状態\(V_0\)から\(V_1\)まで変化させた場合、外部とやり取りする仕事は \[\begin{equation} \Delta W = -NkT \ln \frac{V_1}{V_0} \end{equation}\] として計算できる。同様に、外部とやり取りする熱量は、 \[\begin{equation} \Delta Q = -\Delta W = NkT \ln \frac{V_1}{V_0} \end{equation}\] として計算できる。

 断熱膨張(圧縮)は、\(\delta Q = 0\)より、熱力学第一法則から \[\begin{equation} dU = \delta W \end{equation}\] を満たす。\(dU = \frac{3}{2}NkdT\)\(\delta W = -pdV = - NkT\frac{dV}{V}\)より、 \[\begin{equation} \frac{3}{2}Nk \frac{dT}{T} = -Nk \frac{dV}{V} \end{equation}\] を満たす。初期状態\((V_0, T_0)\)から\((V_1, T_1)\)まで変化させると、 \[\begin{equation} \left( \frac{T_1}{T_0}\right)^{\frac{3}{2}} = \left(\frac{V_0}{V_1}\right) \end{equation}\] という断熱変化における体積と温度の関係式を導くことができる。\(V = \frac{NkT}{p}\)より、 \[\begin{equation} \left( \frac{T_1}{T_0}\right)^{\frac{5}{2}} = \left(\frac{p_1}{p_0}\right) \end{equation}\] という断熱変化における圧力と温度の関係式を導くことができる。

 カルノーサイクルにおける上記の関係式を展開していくと、 \[\begin{equation} \oint \frac{\delta Q}{T} = 0 \end{equation}\] という式を導くことができる。この式は\(\frac{\delta Q}{T}\)が経路に依存しない、すなわち完全微分であることを意味する(循環の仕方に依存せず、循環積分が0になるため)。したがって、 \[\begin{equation} dS = \frac{\delta Q}{T} \end{equation}\] となる状態量\(S\)が存在する(経路に依存しない = ゆっくり変化させると元に戻る、\(dU = \frac{3}{2}NkdT = \delta Q - pdV\)より、\(Q\)に関連した状態量はあるはず)。この\(S\)をエントロピーと呼ぶ。すなわち、 \[\begin{equation} dU = \delta Q + \delta W = TdS - pdV \end{equation}\] として熱力学第一法則を書き表すことができる。

 カルノーサイクルにより行われた仕事は、 \[\begin{eqnarray} \Delta W &=& \Delta W_1 + \Delta W_2 + \Delta W_3 + \Delta W_4 \nonumber\\ &=& -NkT_h \ln \frac{V_2}{V_1} - NkT_c \ln \frac{V_4}{V_3} \nonumber\\ &=& -Nk(T_h - T_c)\ln \frac{V_2}{V_1} = -(\Delta Q_1 + \Delta Q_3) \end{eqnarray}\] これは \(T_h \ge T_c\) より、負の仕事であり、負の仕事とはすなわち気体が外界へ仕事をしたことを意味する。カルノーサイクルは、熱を仕事に変える機関であるといえる。仕事に変換された熱量と吸収された熱量の比(=効率)を計算すると、 \[\begin{equation} \eta = \frac{|\Delta W|}{\Delta Q_1} = \frac{\Delta Q_1 + \Delta Q_3}{\Delta Q_1} = 1 + \frac{\Delta Q_3}{\Delta Q_1} \end{equation}\] ここで、\(\oint\frac{\delta Q}{T} = 0\)もしくは\(\frac{\Delta Q_1}{T_h} + \frac{\Delta Q_3}{T_c} = 0\)を代入すると、 \[\begin{equation} \eta = 1 - \frac{T_c}{T_h} = \frac{T_h - T_c}{T_h} \end{equation}\] となり、温度差を上げれば効率が上がることがわかる。冷たい熱浴\(T_c\)に放射される熱\(\Delta Q_3\)の分、損失が生じていることも意味する。このカルノーサイクルが、最も効率の良い熱機関であることが後々示される(講義の進み具合によるかもしれない)。

2.3 エントロピーと熱力学第2法則

  \[\begin{equation} dU = \delta W_{\rm rev} + \delta Q_{\rm rev} = \delta W_{\rm irr} + \delta Q_{\rm irr} \end{equation}\] かつ、可逆過程における外界への仕事は不可逆過程における仕事よりも大きいことを見た(外界への仕事は負の値であることに注意)。したがって、温度\(T\)において、可逆過程で交換される熱\(\delta Q_{\rm rev}\)は、不可逆過程において交換される熱\(\delta Q_{\rm irr}\)よりも大きい。すなわち、 \[\begin{equation} \delta Q_{\rm irr} < \delta Q_{\rm rev} = TdS \end{equation}\] が成り立つ。特に孤立系では、\(\delta Q_{\rm rev} = 0\)、すなわち\(dS = 0\)(エントロピー一定)でありエントロピーは極値をもつ。経験的に、この極値が最大値であることが知られている。つまり、平衡状態に向かう不可逆過程ではエントロピーは増加して平衡に達したときに最大値をもつ。これが熱力学の第二法則であり、次のように書くことができる。

 熱力学第二法則: 孤立系の平衡状態では、 \[\begin{equation} dS = 0 \end{equation}\] \[\begin{equation} S = S_{\rm max} \end{equation}\] であり、不可逆過程では、 \[\begin{equation} dS > 0 \end{equation}\] である。系が周囲と熱交換する場合は、エントロピーが減少することもある(例えば等積変化[\(\delta W = 0\)]で、冷たい熱浴と熱交換する場合)。先に述べたように、エントロピーは示量変数である。

 ここまで得られた知見をまとめると、 \[\begin{equation} dU = \delta Q + \delta W = TdS - pdV \end{equation}\] となる。さらに、粒子1つを追加するために必要なエネルギーを化学ポテンシャル\(\mu\)といい、これも考慮すると \[\begin{equation} dU = \delta Q + \delta W = TdS - pdV + \mu dN \end{equation}\] となる。これはつまり、\(U = U(S, V, N, ...)\)として内部エネルギー\(U\)\(S, V, N\)の関数であることを意味している。ここから、 \[\begin{equation} T = \frac{\partial U}{\partial S}|_{V, N, ...} \end{equation}\] なとして\(T, p, \mu\)を求めることができる。

— (12/10はここから) —

 (12/03のおさらい)

 カルノーサイクルという循環過程を議論した。カルノーサイクルとは、等温膨張(圧縮)(\(dT = 0\), \(dU = \frac{3}{2}NkdT = 0\)[\(N\)一定])、断熱膨張(圧縮)(\(\delta Q = 0\), \(dU = \delta W\), \(\frac{3}{2}NkdT = -pdV = - \frac{NkT}{V}\))を経て、初期状態に戻る循環過程である。

 カルノーサイクルにおける外部とやり取りする熱量を計算することで、 \[\begin{equation} \oint \frac{\delta Q}{T} = 0 \end{equation}\] という式を得た。これは\(\frac{\delta Q}{T}\)が経路によらず、ゆっくり変化させゆっくり元に戻すことができる系を一意に決める状態量であることを意味する。すなわち、 \[\begin{equation} dS = \frac{\delta Q}{T} \end{equation}\] なる状態量\(S\)が存在し、この\(S\)をエントロピーと呼ぶ。

 エントロピー\(S\)を用いて、熱力学第一法則は\(N\)一定のもと、 \[\begin{equation} dU = \delta Q + \delta W = TdS - pdV \end{equation}\] と書くことができる。

 熱力学第二法則を学んだ。熱力学第二法則とは、孤立系の不可逆過程において \[\begin{equation} dS > 0 \end{equation}\] であり、孤立系の平衡状態では \[\begin{equation} dS = 0 \end{equation}\] となるものであった。すなわち、孤立系において、エントロピーは増え続け、最終的にエントロピーが最大値となる状態で平衡になることを意味する。

理想気体のエントロピー

 粒子数が一定の理想気体のエントロピーを\(T\)\(V\)の関数として計算する。理想気体では\(U = \frac{3}{2}NkT\)であるため、 \[\begin{eqnarray} \frac{3}{2}NkdT &=& TdS - pdV \nonumber\\ \frac{3}{2}Nk \frac{dT}{T} &=& dS - Nk \frac{dV}{V} \end{eqnarray}\] 初期状態\((S_0, V_0, T_0)\)から最終状態\((S, V, T)\)までの積分を考えると、 \[\begin{equation} S - S_0 = \frac{3}{2} Nk \ln \frac{T}{T_0} + Nk \ln \frac{V}{V_0} = Nk \ln \left( \left( \frac{T}{T_0}\right)^{\frac{3}{2}} \left(\frac{V}{V_0}\right) \right) \end{equation}\] を得る。圧力と温度を用いてエントロピーを表すと、 \[\begin{equation} S - S_0 = Nk \ln \frac{T}{T_0} + Nk \ln \frac{V}{V_0} = Nk \ln \left( \left( \frac{T}{T_0}\right)^{\frac{5}{2}} \left(\frac{p_0}{p}\right) \right) \end{equation}\] となる。エントロピーは示量変数であることは、 \[\begin{equation} S = Nk \left( s_0 + \ln \frac{T}{T_0} + \ln \frac{V}{V_0} \right) = Nk \ln \left( \left( \frac{T}{T_0}\right)^{\frac{5}{2}} \left(\frac{p_0}{p}\right) \right) \end{equation}\] と表すことができることからも明らかである(ただし、\(Nks_0 = S_0\))。

エントロピーと熱力学第二法則の微視的な解釈

 統計的な見方と現象論的な見方を結びつけるのが熱力学第2法則。熱力学第二法則は、孤立系はすべて平衡状態に向かって収束するという、よく知られた事実を表現したもの。

 エントロピーは、この傾向を記述できる唯一の状態量。前に見たように、エントロピーは平衡状態で最大値を取り、変化することはない。平衡状態に至る例としては、気体が容器の一部分に集まった初期状態であった場合、満遍なく充満した状態に変化していくことが挙げられる。これは古典力学の法則に反しているように一見思える。古典力学の原理である時間反転不変性では、運動方程式\(\frac{d^2}{dt^2}\boldsymbol{r}(t) = F(t, \boldsymbol{r}(t))\)は、時間を反転させて\(s = -t\)とした軌道\(\boldsymbol{r(s)}\)もまた、もとの軌道\(\boldsymbol{r}(t)\)と同じ運動方程式に従うことを意味する。つまり、状態Aから状態Bに変化するならば、状態Bから状態Aへの変化も可能であることを意味する。しかしながら、気体が充満した状態から容器の一部分に集まることは考えがたい。つまり、熱力学第二法則は古典力学の原理である時間反転不変性に一見反しているように見える。

 上記の古典力学と熱力学第二法則の矛盾を考える。古典力学では、ある時刻における\(N\)粒子の運動状態は\(3N\)個の座標と\(3N\)個の運動量の組\((q_{\nu}, p_{\nu})\)で一意的に決まる。系の微視的状態\((q_{\nu}, p_{\nu})\)は、\(6N\)次元の位相空間の1点に位置する。気体が初期状態\((q_{\nu}(t_0), p_{\nu}(t_0))\)から最終状態\((q_{\nu}(t_f), p_{\nu}(t_f))\)に変化したとする。運動量を反転させた\((q_{\nu}(t_f), -p_{\nu}(t_f))\)が準備できたならば、これは初期状態へと変化する。つまり、「理想的に」運動量を反転させた\((q_{\nu}(t_f), -p_{\nu}(t_f))\)が準備できたならば、もとの過程を反転させることができ、時間反転不変性は保証される。しかしながら、この運動量を反転させた\((q_{\nu}(t_f), -p_{\nu}(t_f))\)が実現する確率が限りなく小さいため、現実には起こり得ない。理想気体の平衡状態での内部エネルギーが\(U = \frac{3}{2}NkT = N \langle \epsilon_{\rm kin}\rangle\)で表されることはだいぶ前に見た。運動量を反転させるだけならば、同じ内部エネルギーを実現可能であるものの、そのほかの同じ内部エネルギーを実現可能な微視的状態数は圧倒的に多く、\((q_{\nu}(t_f), -p_{\nu}(t_f))\)が実現される確率はごくわずかである。

 巨視的な平衡状態では、系の微視的状態は時間とともに激しく変化している。しかしながら、常に圧力、温度、体積のような巨視的な状態量は一定。つまり、同じ巨視的な状態量のもとで、多様な微視的状態が存在することを意味する。ある巨視的状態と両立する微視的状態の数を\(\Omega\)とする。容器の体積\(V\)を均一に占める気体の微視的状態の数\(\Omega\)は、容器の一部の小さな体積を占める\(\Omega\)よりも多い(実現しうる位置の範囲が大きいことからもわかる)。\(N\)個の粒子の巨視的状態を体積\(V\)とすると、1個の粒子が占めることができる微視的状態の数\(\Omega(V)\)は、体積\(V\)に比例するであろう(実現しうる位置の範囲が大きいことから)。\(N\)個の独立な粒子の場合(理想気体の場合)、\(\Omega(V) \propto V^N\)となる(場合の数を考えればよい)。半分の体積を占める場合は\(\Omega(V) \propto \frac{V^N}{2^N}\)となり、体積\(V\)を占めるときよりも微視的状態の数は\(\frac{1}{2^N}\)乗少ない。アボガドロ数と同じ桁の数の粒子があれば、\(N \propto 10^{23}\)であり、\(\frac{1}{2^N}\)乗少ない微視的状態の数とはほぼ存在しないことを意味する。

— (12/17はここから) —

 (12/10のおさらい)

 熱力学第二法則とは、孤立系の不可逆過程にて、 \[\begin{equation} dS > 0 \end{equation}\] かつ平衡状態にて \[\begin{equation} dS = 0 \end{equation}\] となるエントロピーの性質を意味する。つまり、平衡状態に行き着く過程ではエントロピーは増え、平衡状態ではエントロピーは最大値をとる(正確には極大値だが、経験的にこの極大値が最大値である)。

 一方、各粒子の微視的状態は位置\(q \in \mathbb{R}^{3}\)、運動量\(p \in \mathbb{R}^{3}\)のペア\((q, p)\in \mathbb{R}^{6}\)で表すことができ、\(N\)個の粒子の微視的状態は\(6N\)次元の空間の一点として表すことができる。加えて、位置\(q\)は大きな容器(もしくは体積)ほど取りうる値の範囲は広くなるため、ある巨視的状態(例えば\(p, V, T\)など)と両立する微視的状態の数を\(\Omega(V)\)としよう。\(V\)が2倍になれば1個の粒子が存在する範囲も2倍になり、2個の粒子が存在する範囲は\(2^2 = 4\)倍となる。つまり、\(\Omega(V)\propto V^N\)であろう。

 すると、体積\(V\)の容器を満たすように広がった気体の微視的状態の数は\(\Omega(V)\propto V^N\)であり、体積\(V/2\)に固まって存在する気体の微視的状態の数は\(\Omega(\frac{V}{2})\propto \frac{V^N}{2^N}\)となり、\(N\to\infty\)にて、\(\Omega(V) \gg \Omega(\frac{V}{2})\)である。これは数多に存在する微視的状態において、容器の一部に固まって気体が存在することはほぼ実現し得ないことを意味する。

 熱力学第二法則は、孤立系はすべて平衡状態に向かって収束するというものである。上記に基づき、次のように解釈することもできる。容器のうち割合\(q\in[0,1)\)に偏って気体が局在することはない。なぜならば、局在する微視的状態の数は全体的に満遍なく存在する微視的状態の数より\(q^N\)だけ少なく、粒子数の十分多い状況では(\(N\to\infty\))局在する確率は限りなく小さいといえる。

 ところで、エントロピーは平衡状態に向かうにつれて最大値に近づくことを述べた。上記もまた平衡状態では気体の粒子は満遍なく存在する微視的状態の数が最も多い状態に変化していくことを意味している。言い換えるならば、可能な微視的状態が最も大きい\(\Omega_{\rm max}\)をもつ巨視的状態が熱平衡状態に相当する。すなわち、エントロピーと微視的状態の数は関係性があることが予想される。

 エントロピーと微視的状態の数の関係性を考えてみる。2つの独立した系が存在するとき、微視的状態の全体数は\(\Omega_{\rm tot} = \Omega_{1}\Omega_{2}\)として計算できる(例えば2つサイコロを投げたときの目の数を想定すれば掛け算することは自然であろう)。一方、理想気体のエントロピーは、前に見たように、 \[\begin{equation} S = Nk \left( s_0 + \ln \frac{T}{T_0} + \ln \frac{V}{V_0} \right) = Nk \ln \left( \left( \frac{T}{T_0}\right)^{\frac{5}{2}} \left(\frac{p_0}{p}\right) \right) \end{equation}\] として各孤立系ごとに計算でき、2つの独立した系のエントロピーは足し算的に\(S_{\rm tot} = S_1 + S_2\)と書くことができる(示量変数のため)。つまり、関係性がある微視的状態の数とエントロピーはそれぞれ\(\Omega_{\rm tot} = \Omega_{1}\Omega_{2}\)\(S_{\rm tot} = S_1 + S_2\)であることから、 \[\begin{equation} S \propto \log\Omega \end{equation}\] が成り立つべきであることがわかる。興味深い点は、エントロピーは巨視的変数、微視的状態の数は微視的変数であり、ミクロとマクロをつなぐ式であることがわかる。また、平衡状態がエントロピー最大であることから、平衡状態とは最も可能な微視的状態の数が多い状態であることを意味する。

 熱力学第二法則は次のように言い換えることもできる。
1) 第2種の永久機関は存在しない。第2種の永久機関とは、熱浴を冷やしながら仕事しか行わない100%の効率で熱を仕事に変える熱機関である。
2) 巨視的な孤立系は最も可能性の高い、つまり可能な微視的状態が最も多い状態になろうとする。

 2)は説明した通り。1)は、カルノーサイクルの例でみたように、\(\eta = 1 - \frac{T_c}{T_h}\)となり、冷たい熱浴の温度が0(K)でないかぎり効率は1より小さいことを見た。ただし、冷たい熱浴を冷やし、熱い熱浴を暖める過程を加えると、効率100%を達成できる(詳しくは、教科書p.54, 55参照)。しかしながら、\(\delta Q = TdS\)であり、非平衡状態では\(dS > 0\)であることを述べているのが熱力学第二法則である。つまり、熱力学第二法則から冷たい熱浴を冷やす(\(\delta Q < 0\))ことは\(dS > 0\)と反するため、この過程は成立せず、第2種の永久機関は存在しないと考えられている(実験的にも見つかっていない)。

 平衡状態にある孤立系の状態量\(T, p, \mu, ...\)の性質を考える。特に、2つの部分に分かれた孤立した系を考える(図2.7)。周囲とは仕事と熱の交換はなく、部分系は互いに仕事と熱を交換するものとする。すると、 \[\begin{equation} U = U_1 + U_2 = \mathrm{const.} \end{equation}\] \[\begin{equation} S = S_1 + S_2 = \mathrm{const.} \end{equation}\] \[\begin{equation} V = V_1 + V_2 = \mathrm{const.} \end{equation}\] \[\begin{equation} N = N_1 + N_2 = \mathrm{const.} \end{equation}\] である。熱力学第一法則より、 \[\begin{equation} dU_1 = T_1dS_1 - p_1dV_1 + \mu_1dN_1 + ... \end{equation}\] \[\begin{equation} dU_2 = T_2dS_2 - p_2dV_2 + \mu_2dN_2 + ... \end{equation}\] である。\(dU = 0\) (\(dU_1 + dU_2 = 0\))、\(dS= 0\) (\(dS_1 + dS_2 = 0\))、\(dV = 0\) (\(dV_1 + dV_2 = 0\))、\(dN = 0\) (\(dN_1 + dN_2 = 0\))などより、上の2つの式をたすと、 \[\begin{equation} 0 = (T_1 -T_2)dS_1 - (p_1 - p_2)dV_1 + (\mu_1 - \mu_2)dN_1 + ... \end{equation}\] となる。すなわち、\(T_1 = T_2\)\(p_1 = p_2\)\(\mu_1 = \mu_2\)が熱平衡のために必要な条件であることがわかる。つまり、孤立系が平衡状態にあるならばどこでも一定の同じ温度、圧力、化学ポテンシャルなどをもっていることを示している。

2.5 大域および局所平衡

 系がどこでも同じ温度、圧力、化学ポテンシャルwもつ平衡状態にあるならば、大域的に熱平衡であるという。部分系に分割できる場合は、それぞれの部分系は局所平衡にあるという。

2.6 熱機関

 前に可逆過程と不可逆過程において \[\begin{equation} \delta W_{\rm irr} > \delta W_{\rm rev} = -pdV \end{equation}\] が成り立つことを見た。理想気体が仕事を行わずに真空に向けて膨張するならば\(\delta W_{\rm irr} = 0\)、気体が外力と平衡を保ちながら可逆的に変化するならば\(\delta W_{\rm rev} = -pdV < 0\)であることを見た。圧縮ならば、\(\delta W_{\rm rev} = -pdV > 0\)であり、不可逆的に圧縮する場合は加えた仕事の一部が熱などのエネルギーに変換されるため、可逆過程よりも多くの仕事を必要として、\(\delta W_{\rm irr} > \delta W_{\rm rev}\)\(\delta W_{\rm irr} > \delta W_{\rm rev}\)が成り立っている以上、\(dU\)が同じ不可逆過程、可逆過程を比べれば \[\begin{equation} \delta Q_{\rm irr} < \delta Q_{\rm rev} = TdS \end{equation}\] となる。つまり、可逆過程では利用できる仕事を最も多く行う(\(\delta W_{\rm rev} < 0\)のとき、外部に仕事[利用できる仕事]を行っていることに注意)。加えて、\(\delta W_{\rm irr} > \delta W_{\rm rev} > 0\)は気体に仕事をして熱を取り出すことができる状況を意味するが、可逆過程の方が同じ\(dU\)において\(\delta Q_{\rm irr} < \delta Q_{\rm rev} = TdS\)より、同じ熱量を取り出すために必要な仕事の量は少ない。すなわち、可逆的な熱機関が最も効率よく熱を仕事に変換することができる。可逆過程は無限に遅く無限の時間を要する理想的なものであることに注意。

— (12/24はここから) —

 (12/17のおさらい)

 ある巨視的変数(\(p, V, T, N\)など)と両立する微視的状態の数を考えた。例えば内部エネルギーは\(U = N \langle \epsilon_{\rm kin}\rangle = \frac{3}{2}NkT\)として、各粒子の運動エネルギーの平均値であることを見た。つまり、平均さえ同じであれば、様々な各粒子の運動エネルギーのパターン(微視的状態)が同一の内部エネルギー(巨視的状態)と対応することを意味する。特に、各粒子の状態を位置\(q\)、運動量\(p\)のペア\((q, p)\)で記述する位相空間では、体積\(V\)の大きい容器ほど位置の取りうる範囲は大きく、同一の巨視的状態と対応する微視的状態の数\(\Omega\)\(\Omega(V)\)となり、場合の数の考え方から\(\Omega(V) \propto V^N\)となることがわかる。

 \(\Omega(V) \propto V^N\)より、十分時間が経ち、容器に気体が充満した状態(\(V\)が最大)は最も微視的状態の数が多い状態になったと考えることができる。さらに、巨視的状態を反映するエントロピー\(S\)もまた、十分時間が経つと最大値になる(熱力学第二法則)。すなわち、\(\Omega(V)\)\(S\)の間には関係性があることが期待できる。2つの孤立系を考えると、微視的状態の数は\(\Omega_{12} = \Omega_{1}\Omega_{2} = V_1^{N_1}V_2^{N_2}\)、エントロピーは\(S_{12} = S_1 + S_2\)(示量変数であるため)、すなわち \[\begin{equation} S = \log \Omega \end{equation}\] という関係があることを見た。エントロピーは巨視的変数、\(\Omega\)は微視的状態を表す変数であり、エントロピーは巨視的な世界と微視的な世界をつなぐ変数であることがわかる。

問題2.1 温度の混合

 2つの部分系AおよびBからなる系が平衡状態に達したときの最終的な温度\(T_f\)を考えよ。初期温度、比熱はそれぞれ\(T_A\)\(T_B\)\(C_A\)\(C_B\)で一定。完全に不可逆な場合\(\delta W = 0\)、完全に可逆な場合\(\delta W_{\rm max}\)という2つの極限的状況を想定し、エントロピーの変化、および可逆過程の場合に取り出せる力学的仕事量を計算する。

 1) 不可逆過程のとき(\(\delta W = 0\))。\(\delta Q = CdT\)であり、\(dU = 0 + \delta Q_A + \delta Q_B = 0\)より、交換される熱量の関係は\(\delta Q_A = -\delta Q_B\)。つまり、\(C_AdT_A = C_BdT_B\)が常に成り立っており、初期状態から最終状態まで積分すると \[\begin{equation} C_A\int_{T_A}^{T_f}dT_A = - C_B\int_{T_B}^{T_f}dT_B \end{equation}\] したがって、 \[\begin{equation} T_f = \frac{C_AT_A + C_BT_B}{C_A + C_B} \end{equation}\] となる。エントロピーの変化は、 \[\begin{equation} \Delta S_A = \int\frac{\delta Q_A}{T} = C_A \int_{T_A}^{T_f}\frac{dT}{T} = C_A\ln \frac{T_f}{T_A} \end{equation}\] \[\begin{equation} \Delta S_B = \int\frac{\delta Q_B}{T} = C_B \int_{T_B}^{T_f}\frac{dT}{T} = C_B\ln \frac{T_f}{T_B} \end{equation}\] エントロピーの全変化は正であることを確認する(熱力学第二法則)。\(k = C_A/(C_A + C_B)\)として \[\begin{equation} \Delta S_A + \Delta S_B = C_A \ln \left( k + (1-k)T_B/T_A \right) + C_B \ln \left( kT_A/T_B + (1-k) \right) \ge 0 \end{equation}\] 等号成立は\(T_A = T_B\)のときであり、この場合は熱交換がなくエントロピーの変化がないことがわかる。

 2) 可逆過程のとき。熱力学第二法則より、平衡状態のときに\(dS = dS_A + dS_B = \frac{\delta Q_A}{T_A} + \frac{\delta Q_B}{T_B} = 0\)が成り立つ。積分すると、 \[\begin{equation} \Delta S = \int_{T_A}^{T_f} \frac{C_AdT_A}{T_A} + \int_{T_B}^{T_f} \frac{C_BdT_B}{T_B} = C_A \ln \frac{T_f}{T_A} + C_B \ln \frac{T_f}{T_B} = 0 \end{equation}\] すなわち、 \[\begin{equation} \left(\frac{T_f}{T_A}\right)^{C_A}\left(\frac{T_f}{T_B}\right)^{C_B} = 1 \end{equation}\] より、 \[\begin{equation} T_f = \sqrt[C_A + C_B]{T_A^{C_A}T_B^{C_B}} \end{equation}\] を得る。不可逆過程では\(T_f\)\(C_A\)\(C_B\)で重み付けられた算術平均、可逆過程では幾何平均を得る。算術平均は幾何平均よりも一般的に大きいため、\(T_{f}^{\rm rev} < T_{f}^{\rm irr}\)が成り立つ。可逆過程で考えている熱機関によりなされる仕事は\(\delta W = dU = C_A(T_f - T_A) + C_B(T_f - T_B)\) (不可逆過程では0であった)。

オイラー方程式とギブス-デュエムの関係

 系が、粒子数と化学ポテンシャルが各々\(N_i\)\(\mu_i\)である\(K\)種類の粒子から構成されているとする。熱力学第一法則より、 \[\begin{equation} dU = TdS - pdV + \mu_idN_i \end{equation}\] が成り立つ。これはすなわち示量状態量である\(U\)は、示量状態量\(S\), \(V\), \(N_1\), …, の関数であらされていることを意味している。示量状態量は系の大きさに依存する。そのため、 \[\begin{equation} U(\alpha S, \alpha V, \alpha N_1, ..., \alpha N_K) = \alpha U(S, V, N_1, ..., N_K) \end{equation}\] 示強変数は、系の大きさに依存しないため、 \[\begin{equation} T(\alpha S, \alpha V, \alpha N_1, ..., \alpha N_K) = T(S, V, N_1, ..., N_K) \end{equation}\] である。いま、\(\alpha = 1 + \epsilon \ (\epsilon \ll 1)\)としてテーラー展開すると、 \[\begin{equation} U((1+\epsilon) S, (1+\epsilon) V, (1+\epsilon) N_1, ..., (1+\epsilon) N_K) = U(S, V, N_1, ...) + \frac{\partial U}{\partial S}\epsilon S + \frac{\partial U}{\partial V}\epsilon V + \frac{\partial U}{\partial N_1}\epsilon N_1 + ... \end{equation}\] を得る。また、熱力学第一法則の式より\(T = \frac{\partial U}{\partial S}\)\(-p = \frac{\partial U}{\partial V}\)\(\mu_i = \frac{\partial U}{\partial N_i}\)であるため、 \[\begin{equation} U((1+\epsilon) S, ... ) = U(S, V, N_1, ...) + \epsilon (TS - pV + \sum_i\mu_iN_i) \end{equation}\] を得る。さらに、 \[\begin{equation} U(\alpha S, \alpha V, \alpha N_1, ..., \alpha N_K) = \alpha U(S, V, N_1, ..., N_K) \end{equation}\] であるから、\(U((1+\epsilon) S, ... ) = (1 + \epsilon)U\)。合わせて、オイラー方程式 \[\begin{equation} U = TS - pV + \sum_i\mu_iN_i \end{equation}\] を得る。さらにこの全微分を計算すると、 \[\begin{equation} dU = TdS - pdV + \sum_i \mu_idN_i + SdT - Vdp + \sum_iN_id\mu_i \end{equation}\] となる。熱力学第一法則より、 \[\begin{equation} dU = TdS - pdV + \mu_idN_i \end{equation}\] であった。したがって、 \[\begin{equation} 0 = SdT - Vdp + \sum_iN_id\mu_i \end{equation}\] というギブス-デュエムの関係を得る。これはすなわち、示強状態量である\(S\)\(V\)\(N\)は、ギブス-デュエムの関係を満たす必要があり、各々独立にはきまらないことを示している。

例2.6 理想気体の化学ポテンシャル

 理想気体のエントロピーを再度計算する。 \[\begin{equation} dU = \frac{3}{2}NkdT = TdS - pdV \end{equation}\] より、 \[\begin{equation} dS = \frac{3}{2}NkdT + \frac{p}{T}dV = \frac{3}{2}\frac{Nk}{T}dT + \frac{Nk}{V}dV \end{equation}\] 初期状態から最終状態まで積分して、 \[\begin{equation} S - S_0 = N(s - s_0) = Nk \frac{3}{2} \ln \frac{T}{T_0} + Nk \ln \frac{V}{V_0} = Nk \ln \left( \frac{T}{T_0} \right)^{\frac{3}{2}} \left( \frac{V}{V_0} \right) = \ln \left( \frac{T}{T_0} \right)^{\frac{5}{2}} \left( \frac{p_0}{p} \right) \end{equation}\] これを利用して、理想気体の化学ポテンシャルが\(T\)\(p\)の関数としてかけることを示す。

 ギブス-デュエムの関係から、 \[\begin{equation} 0 = SdT - Vdp + Nd\mu \end{equation}\] であるため、 \[\begin{equation} d\mu(p, T) = -\frac{S(p,T)}{N}dT + \frac{V(p,T)}{N}dp \end{equation}\] と書き直すことができる。さきほど計算したエントロピーを代入して、\(V = NkT/p\)より、 \[\begin{eqnarray} d\mu(p, T) = -\left(ks_0 + k \ln \left( \frac{T}{T_0} \right)^{\frac{3}{2}} \left( \frac{V}{V_0} \right)\right)dT + kT\frac{dp}{p} = -\left(ks_0 + \ln \left( \frac{T}{T_0} \right)^{\frac{5}{2}} \left( \frac{p_0}{p} \right) \right)dT + kT\frac{dp}{p} \end{eqnarray}\] 初期状態から最終状態まで積分する。このとき、\(\ln p dT\)の積分を避けるため(互いに関係するため)、\(p = p_0\)において\(T\)\(T_0\)から\(T\)まで上げる経路1、\(T = T\)において\(p\)\(p_0\)から\(p\)まで上げる経路を考える (\(d\mu\)は完全微分であり、経路に依存しない)。 \[\begin{eqnarray} \mu(p, T) - \mu(p_0, T_0) = -ks_0(T - T_0) - k \frac{5}{2}\int \ln T dT + k \frac{5}{2}(T - T_0) \ln T_0 + kT\ln \frac{p}{p_0} \end{eqnarray}\] 最終的に、 \[\begin{equation} \mu(p, T) = \mu_0(p, T) - s_0k(T - T_0) - \frac{5}{2}kT \ln \frac{T}{T_0} + \frac{5}{2}k(T - T_0) + kT\ln \frac{p}{p_0} \end{equation}\] を得る。化学ポテンシャルは\(p, T\)の関数として書くことができ、1粒子を加えるために必要なエネルギーを表す。

演習課題(レポート課題)

1: 例2.6を自分で計算せよ。

2: 問題2.3を解け。