2020/1/10

1.はじめに

問題関心

  1. 先人たちは…
    様々な分野で「主観と客観」が議論されている
    → 哲学では、カント、三木清、西田幾多郎
    → 社会学では、ジンメル

    主観と客観は一致しているのでないか

  2. 問い
    人は対象を見た瞬間に、相対的な位置を判断しているの?
    その対象をみたら、皆同じ判断なのか?

    主観と客観は一致していないのでないか

仮説

  1. 「現役世代の人々は客観的な個人年収から現在の主観的な個人年収の位置を把握できていない」
    ・問題関心の計量的な分析を行なう

    ・クロス集計表と重回帰分析

    第一仮説

  2. 「現役世代の人々は準拠集団 を考慮すると、客観的な個人年収から現在の主観的な個人年収の位置を把握している」
    ・石田(2015)によると、年収を比較する場合の準拠集団は    仕事の次元が最も選ばれた(石田淳 2015:135-136)。

    ・2016年の民間給与実態統計調査を用いて準拠集団の影響を
    含めた分析を行なう
    ・重回帰分析

    第二仮説

2.主要データの分布

主観的な個人年収の位置の度数分布表

  • 平均以下に86%が存在

  • 多いと答えた人が14%しかいない

15歳時の世帯年収の位置の度数分布表

  • 平均より多いは、111人が回答し、全体の19%で2番目に多い。
  • 過去の感覚を聞いたため「わからない/覚えていない」と答えた人が多い。
  • 調査の順番により、15歳時の家庭状況が現在の生活状況に影響した可能性 →キャリーオーバー効果

客観的な個人年収の度数分布表

  • 600万円未満の人が78%、600万円以上の人は9%
  • 個人年収を答えたくない人が83人いた。

3.第一仮説の検証

クロス集計表(1)

  • 過去の世帯収入が少ない人は、現在の個人年収も少ない傾向
  • しかし、過去の世帯収入が多い人は、現在の個人年収は多い傾向

クロス集計表(2)の表

クロス集計表(2)の分析

  • 最頻値に注目すると、ほぼ順番通りになる
  • ほぼ平均と答えたのは、350万円・450万円・550万円

  • 日本の平均給与額441万円
  • ほぼ平均と答えた3つの最頻値の次の値は、順番に並ぶ

  • 現役世代は主観的位置を判断できている可能性

重回帰分析(1)の表

重回帰分析(1)の分析

  • 現在の主観的な個人年収の位置を被説明変数

  1. Model1では、15歳時の主観的な世帯収入の位置を説明変数
    ⇒ 0.1%水準で有意

  2. Model2では、15歳時の主観的な世帯収入の位置個人年収を説明変数
    ⇒ 両者ともに0.1%水準で有意

  3. Model2_sdにおいて、個人年収の方が、
    15歳時の主観的な世帯収入の位置よりも大きな影響がある  

  • ◎第一仮説と真逆の結果になった

4.第二仮説の検証

業種別の平均給与額と度数分布

(引用)国税庁,2016,「民間給与実態統計調査 第12表 業種別及び年齢階層別の給与所得者数・給与額(1年を通じて勤務した給与所得者)」

重回帰分析(2)の表

重回帰分析(2)の分析

  • 現在の主観的な個人年収の位置を被説明変数

  1. Model1では、個人年収を説明変数
    ⇒ 0.1%水準で有意

  2. Model2では、個人年収の多寡を説明変数
    ⇒ 0.1%水準で有意

  3. Model3では、個人年収個人年収の多寡を説明変数
    ⇒ 個人年収は、0.1%水準で有意だが、個人年収の多寡は、有意でなく、負の影響を与えている。

  4. Model3_sdにおいて、個人年収の方が大きな影響がある

重回帰分析(3)  : 統制ありの表

重回帰分析(3)  : 統制ありの分析

  • 現在の主観的な個人年収の位置を被説明変数

  • 統制変数として、性別・年齢・職業・教育年数の4つの変数

  1. Model1では、統制変数を説明変数
    ⇒ 統制変数の中で教育年数が唯一0.1%水準で有意

  2. Model2では、統制変数個人年収を説明変数
    ⇒ 個人年収だけ0.1%水準で有意

  3. Model3では、統制変数個人年収個人年収の多寡を説明変数
    ⇒ 個人年収だけ0.1%水準で有意

  • ◎準拠集団は関係ない(第二仮説は棄却)

5.おわりに

結論

  • 第一仮説、第二仮説共に棄却された

  • 現役世代の人々の「現在の主観的な個人年収の位置である主観は、額面にある個人年収である客観から規定されていた

今後の課題

1. 調査票を既存の調査票と合わせる
- コード化の過程で、サンプルサイズが小さくなった

2. 男女別の準拠集団をつくる
- 給与額、比較対象が異なる

3. SSM調査などの大規模調査を用いる
- 今回よりも標本の数が多い
- 世代間の比較ができる

文献

□石田淳,2015,『相対的剥奪の社会学-不平等と意識のパラドックス-』東京大学出版会

□国税庁,2016,「民間給与実態統計調査 第12表 業種別及び年齢階層別の給与所得者数・給与額(1年を通じて勤務した給与所得者)」(https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003045948  2019年12月31日にアクセス)

□国税庁,2019, 「平成30年分民間給与実態統計調査結果について」(https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/minkan/index.htm 2019年12月30日にアクセス)