国会議員のジェンダーバランス

日本の国会議員のジェンダーバランスは悪すぎるといつも思う.ではどれくらい偏っているのだろうか.

現在,衆議院の定数は464,参議院の定数は245だが,このうち女性議員の人数はそれぞれ46と56である12.合計して比率を求めると,

women.ratio <- (46 + 56) / (464 + 245)
print(women.ratio)
## [1] 0.1438646

約14.4%である.

母比率の検定

今回は議員のジェンダーバランスを題材に推測統計学の母比率の検定を復習してみたい.国会議員を被選挙権のある日本国民から無作為抽出されたサンプルと考えたばあい,女性比率が14.4%になる確率はどの程度か確かめてみようということである.

母比率は\(\pi\),標本比率は\(P\)で表されることが多い.\(P\)の分布は,サンプルサイズ\(n\)が大きくなるほど,平均\(\pi\),分散\(\frac{\pi(1 - \pi)}{n}\)の正規分布に近づく.

\(P\)を標準化した検定統計量は\(Z\)とよばれ,次の式で定義される.

\(Z = \frac{P - \pi}{\sqrt\frac{\pi(1 - \pi)}{n}}\)

これを計算して得られた値を標準正規分布の統計数値表でチェックすれば,いま求めたい確率を算出することができる.

具体的な数値

ここで,上記の通り\(P = 0.143...\)\(n = 709\)である.

\(\pi\)は0.5でいいだろう.実際には高齢化の影響で女性の方が少し多いかもしれないが,被選挙権のある日本国民の男女比はおそらく1対1と考えられる.今回は統計的検定を行うのが目的ではないが,いちおう,「母集団の女性比率が0.5」というのが帰無仮説となる.対立仮説は,「母集団の女性比率は0.5より小さい」というものだ.

計算結果

では計算してみよう.

women.ratio.z <- (women.ratio - 0.5) / sqrt((0.5 * (1 - 0.5)) / 709)
print(women.ratio.z)
## [1] -18.96567

\(Z = -18.965...\)となった.\(Z\)が標準正規分布することを考えると,母比率0.5の集団から無作為抽出した場合にはほとんど出現しない値である.どれくらい珍しいのか確かめてみる.

まず手元の統計数値表(盛山 2004の付録)には,\(Z = |3.09|\)の場合までしか載っていない.その場合の上側(下側)確率は\(0.001001...\)だそうである.よって,0.1%水準の片側検定の結果,「母集団の女性比率が0.5」という帰無仮説は棄却できる.つまり,この値(そもそもは国会議員の女性比率)からかんがみるに,国会議員が無作為抽出で選ばれている場合,そもそも母集団である日本社会女性比率は0.5よりも小さいと判断するのが妥当だということだ.

せっかくなので\(Z = -18.965...\)の出現する確率をより正確に調べてみよう.

# 平均0, 標準偏差1の標準正規分布でのZ値の下側確率
pnorm(women.ratio.z, 0, 1)
## [1] 1.639021e-80

0.000…1639021%だそうだ.途中,0は79個ある.ともかく,無作為抽出したら絶対に今のようなジェンダーバランスにはならないということである.

母比率の信頼区間の推定

次に,どのような女性比率の母集団からであれば,14.4%という女性比率が現れるのであろうか.もちろん女性比率が14.4%である母集団からもっとも現れやすいのであろうが,その95%区間推定をしたい.女性比率0.143…の母集団から709人サンプルを選んだときの標本平均の分布の下側2.5%点と上側2.5%点がわかればよいということである.計算は省略.

qnorm(0.025, women.ratio, sqrt((women.ratio * (1 - women.ratio)) / 709))
## [1] 0.1180317
qnorm(0.975, women.ratio, sqrt((women.ratio * (1 - women.ratio)) / 709))
## [1] 0.1696975

ということで,女性比率11.8%から17%くらいの集団が母集団だったとすれば,現在の国会議員の女性比率も無作為抽出で選ばれたのと同じくらいの女性比率であるといえる.

まとめ

ともかく,今回わかったのは無作為抽出したら絶対に今のようなジェンダーバランスにはならないということである.しかし,そもそも国会議員は投票によって選ばれているのだから,「無作為抽出されているとは考えられない」という結論が得られたとしても,そんなことはわかりきっていると思われるかもしれない.

だが,代議制を採用している以上,国会議員の構成はできるだけ日本社会全体のひとびとの構成に近くなければいけないのではないか.つまり国会議員のジェンダーバランスが,日本の有権者を無作為抽出して選ばれた709人のジェンダーバランスと同じような感じになるのが望ましいということではなかろうか3

「日本の有権者を無作為抽出して選ばれた709人のジェンダーバランス」がどれくらいか試算してみよう.平均0.5,標準偏差\(\sqrt((0.5 * (1 - 0.5)) / 709\)の正規分布の95%信頼区間を求めればよい.手計算は省略.

qnorm(0.025, 0.5, sqrt((0.5 * (1 - 0.5)) / 709))
## [1] 0.463196
qnorm(0.975, 0.5, sqrt((0.5 * (1 - 0.5)) / 709))
## [1] 0.536804

709人を100回無作為抽出したとしたら95回は女性比率が46.3%から53.6%の間に収まるということである.したがってまずは国会議員の女性比率46.3%を目指してはいかがだろうか4

おまけ

あらためて,なぜ日本では女性議員が少ないのか.政治学で研究されていると思うし卒論が一段落したらそういった文献を読もうと思っているのだが,とりあえず私の予想を挙げてみる.分析的には,以下の二つに分かれる.

ひとつは,議員に立候補しようと考える人たちの集団において女性が少ないということではないかと思う.上では母集団を日本社会全体と考えたが,実際には選挙に出ようと考える人というのはいわゆる「地盤・看板・かばん」をもっている人に限られると思われる.日本ではそういう人たちの多くは男性であろう.なぜなら将来選挙に出ることにつながるような政治関係の職業,官僚,マスコミ,その他の職業には男性のほうが多いからである5.こう考えると,じつは14.4%という女性比率は,「潜在的立候補者の集合」としての「母集団」のなかから無作為抽出したときの女性比率とそれほど変わらないのかもしれない.「母比率の信頼区間の推定」でも触れたとおり,女性比率が11.8%から17%くらいの母集団であれば14.4%という標本平均でもおかしくはない.

もうひとつは,投票する側の問題である.すなわち,女性にあまり投票しないような人のほうが多く投票に行く傾向にあるのではないかということである.すぐに思いつくのは年齢層別の投票率の違いである.これも本当にそうかわからないが,若いほど性別役割分業意識は弱いと考えると,10, 20代が一番女性に入れる可能性が高いということになるが,この年齢層の投票率の低さは周知のとおりである.あと気になるのは投票者のジェンダーである.女性は男性よりも女性候補に入れやすいのだろうか.

以上です.卒論書かなきゃ.

参考文献

盛山和夫, 2004, 『社会調査法入門』有斐閣.


  1. 「選挙毎日」より.↩︎

  2. 本題からそれるが,定数の少ない参議院のほうが女性議員が多いのはなぜだろう.↩︎

  3. もちろん年齢層,エスニシティ,出身階層,障碍の有無などの観点からもバランスが保たれているのがよい.↩︎

  4. と自分で書いておきながらおかしなことに気づいた.95%信頼区間は標準偏差が大きくなればそれだけ広がる.標準偏差が大きくなるのはサンプルサイズ(ここでいう議員定数)が小さくなるときである.したがって,95%信頼区間の下限値を目標値とすると,議員定数を減らせば目標値も下がってしまうことになる.でも正直こんなのはどうでもよく,早く50%にするべきである.↩︎

  5. 世襲の場合はキャリアを積むなかで政治家を目指すというのとは別パターンである.政治家の世襲は近年になってもかなりみられる.息子がいれば息子に継がせるかもしれないが,政治家の家庭も少子化していくと考えると,少子化に伴って女性の世襲議員が増えるというような事態になるかもしれない.↩︎