1 データと本レポートの位置づけ

回答者は 24名である。標本が小さいため、以下は仮説について確定的な結論を出すものではなく、今後の調査に向けた探索的分析として位置づける。

統計的な有意性を表すp値だけでなく、関係の方向と大きさを表す相関係数rhoも重視する。

本データには、重要な限界が2点ある。

  1. 回答者は全員が日本の高校出身である。出身地が中国の3名についても、通った高校は日本に所在している。したがって、このデータだけでは日本と中国の高校教育を直接比較できない。
  2. 本調査は横断的な自己申告調査である。そのため、変数間に関係が確認されても、因果関係を直接主張することはできない。
出身国の内訳(高校所在国は全員日本)
出身国 Freq
CN 3
JP 21

2 分析で使用する主な指標

本分析では、アンケートの複数の質問への回答をまとめ、以下の指標を作成した。各指標は、特定の学習経験や教育環境の程度を表している。

指標 内容 作り方
受験プレッシャー 高校または塾で、受験競争のプレッシャーをどの程度感じていたか 単独の質問項目
受験下での学習経験 受験を意識する中で、知識の習得・活用、計画性、粘り強さ、協働などの経験がどの程度あったか exam関連7項目の平均
探究・協働的な授業 問いの設定、話し合い、実社会との接続、振り返りなどの授業経験がどの程度あったか class関連9項目の平均
知識以外を含む評価 応用力、論理的説明、協働、探究、成長などが成績評価にどの程度反映されていたか comp関連5項目の平均
学校外との学習機会 地域、企業、大学、行政、NPOなどと関わる学習機会がどの程度あったか external関連5項目の平均
3領域の相対的な強み 知識・スキル・態度/価値観のうち、本人がどの領域を相対的な強み・弱みとして認識していたか 強みの選択数−弱みの選択数
3領域間の偏り 知識・スキル・態度/価値観の得点差がどの程度大きいか 3領域の最大得点−最小得点

3 尺度の信頼性

ここでは、複数の質問をまとめて1つの指標として扱ってよいかを確認する。Cronbach’s alphaは、質問項目が同じ傾向を一貫して測っているかを表す指標である。

数値が高いほど質問項目のまとまりが強く、一般的には0.7以上が1つの目安とされる。

各尺度を構成する質問項目のまとまり
尺度 alpha
受験を意識した経験(7項目) 0.860
探究・協働的な授業(9項目) 0.934
評価への反映(全8項目) 0.481
知識以外を含む評価(5項目) 0.674

受験を意識した経験のalphaは0.86、探究・協働的な授業のalphaは0.934であった。これらの数値を踏まえ、各質問への回答を平均し、1つの指標として分析する。

4 記述統計

主要指標の記述統計
指標 N 平均 SD 最小 最大
exam_pressure 24 3.29 1.52 1 5.0
exam_index 24 2.95 0.77 1 4.0
class_index 24 2.90 0.81 1 4.0
comp_eval_index 24 2.57 0.64 1 3.8
external_index 24 1.71 0.75 1 3.4

5 指標間の相関

標本が小さく、回答尺度も連続量とは限らないため、Spearmanの順位相関係数を用いる。

下三角=相関係数rho/上三角=p値(N最大24)
exam_pressure exam_index class_index comp_eval_index external_index
exam_pressure 1.00 0.107 0.067 0.856 0.408
exam_index 0.34 1.000 0.366 0.004 0.505
class_index -0.38 0.190 1.000 0.027 0.015
comp_eval_index -0.04 0.570 0.450 1.000 0.031
external_index -0.18 0.140 0.490 0.440 1.000

探究・協働的な授業、知識以外を含む評価、学校外との学習機会が相互にどの程度関連しているかを確認する。ここで確認される相関は、学校における学習方法、評価方法、外部との連携が、どの程度まとまって存在していたかを示す。

6 仮説の核心:受験プレッシャーは探究・活用を抑制するか

受験プレッシャーと各指標の関係
関係 N rho p
pressure × class_index 24 -0.38 0.067
pressure × comp_eval_index 24 -0.04 0.856
pressure × exam_index 24 0.34 0.107

受験プレッシャーと探究・協働的な授業の相関係数は、rho=-0.38であった。

この結果から、受験プレッシャーが高いことだけで、探究・協働的な授業経験や知識以外を含む評価のあり方が一律に決まるのかを検討する。

高受験プレッシャー層における探究・協働的な授業経験
指標 人数
高受験プレッシャー層 14
うちclass_indexが3.0以上 6

高プレッシャー層(受験プレッシャー4以上)は14名であり、そのうち探究・協働的な授業の指標が3.0以上の回答者は 6名 であった。

このことから、少なくとも本サンプルでは、強い受験プレッシャーと豊かな探究経験が両立していた事例が存在することが分かる。

高受験プレッシャー層のprofile_type分布
profile_type Freq
両方弱い型 2
両方強い型 3
中間・混合型 6
受験中心型 1
対象外 2

7 出身国比較

高校所在国は全員日本であり、中国出身者の人数も限られている。そのため、以下の結果は参考値にとどめ、日中の高校教育の違いとして解釈しない。

出身国別の参考値
指標 JP_N CN_N JP平均 CN平均 p
class_index 21 3 3.02 2.07 0.073
comp_eval_index 21 3 2.55 2.67 0.792
external_index 21 3 1.79 1.13 0.119

日中の高校教育を比較するためには、中国の高校を卒業した回答者を別途リクルートする必要がある。

8 学習機会の公平性

学習機会の公平性に関する認識
回答 人数 external_index平均
不公平だと思う 15 1.85
公平だと思う 9 1.47

「公平に享受できていたと思わない」と回答した者は、15名(62%)であった。

学校外との学習機会の平均は、不公平だと感じていた回答者で1.85、公平だと感じていた回答者で1.47であり、Wilcoxon検定のp値は0.247であった。

自由記述については、留学・渡航プログラムの費用や、選抜による参加機会の制限などとあわせて解釈する必要がある。

9 主要な可視化

以下はggplot2による可視化である。ggplot2がインストールされていない場合、図は表示されないが、それ以外の分析は実行される。

プロファイル・マップ:受験下の経験と探究・協働的な授業

プロファイル・マップ:受験下の経験と探究・協働的な授業

受験プレッシャーと探究・協働的な授業

受験プレッシャーと探究・協働的な授業

成績評価に反映されていた要素

成績評価に反映されていた要素

主要指標間のSpearman順位相関

主要指標間のSpearman順位相関

学習機会の公平性に関する認識

学習機会の公平性に関する認識

10 ラーニング・コンパス3領域の相対的な強み

本調査では、高校卒業時点の自分について、9項目の中から「最も当てはまるもの」と「最も当てはまらないもの」を、それぞれ3つ選んでもらった。

9項目を「知識」「スキル」「態度・価値観」の3領域に分類し、強みとして選んだ項目を+1、弱みとして選んだ項目を−1として、領域ごとの得点を算出した。

この得点は、能力の絶対的な高さではなく、本人の自己認識の中で、どの領域が相対的な強み・弱みだったかを表している。

10.1 回答の有効性

3領域の分析に使用できる回答数
回答状況 人数
指定どおり回答 21
指定数と異なる回答 3

全回答者24名のうち、強みと弱みをそれぞれ3つ選んだ回答者は 21名 であった。

指定された選択数と異なる回答者(ID:1、5、8)については、3領域の分析から除外した。

10.2 3領域の相対的な強み

知識・スキル・態度/価値観の相対的な強み
領域 N 平均 中央値 SD 最小 最大
知識 21 -0.38 0 1.16 -2 1
スキル 21 -0.24 0 1.09 -2 2
態度・価値観 21 0.62 1 1.24 -2 2

Y得点は、各領域において「強みとして選んだ項目数」から「弱みとして選んだ項目数」を引いたものであり、−3から+3の範囲をとる。

  • 正の値:他の領域と比べて相対的な強み
  • 0:強みと弱みが相殺されている
  • 負の値:他の領域と比べて相対的な弱み

有効回答では、3領域のY得点の合計は必ず0になる。そのため、この分析では「3領域すべての能力が高いか」ではなく、3領域間で強みと弱みがどのように分布しているかを見る。

10.3 3領域のバランス

3領域のうち、最も高いY得点と最も低いY得点の差を Y_balance_gap とした。

値が小さいほど3領域間の相対的な偏りが小さく、値が大きいほど、特定の領域への強み・弱みの偏りが大きいことを示す。

3領域間の偏りの記述統計
指標 N 平均 中央値 SD 最小 最大
3領域間の偏り 21 2.62 3 1.2 0 4
3領域間の偏りの分布
Y_balance_gap 人数 割合
0 2 9.5
2 8 38.1
3 5 23.8
4 6 28.6

Y_balance_gap = 0 は、3領域の相対的な偏りがないことを示す。ただし、これは3領域すべての能力が高いことを意味するものではない。

10.4 受験プレッシャーと3領域の関係

受験プレッシャーと3領域の相対的な強み・偏り
指標 N rho p
知識の相対的な強み 21 -0.20 0.383
スキルの相対的な強み 21 -0.22 0.331
態度・価値観の相対的な強み 21 0.35 0.120
3領域間の偏り 21 -0.05 0.835

Y_balance_gapとの相関は、次のように解釈する。

  • 正の相関:受験プレッシャーが高いほど、3領域間の偏りが大きい
  • 負の相関:受験プレッシャーが高いほど、3領域間の偏りが小さい
  • 0に近い:受験プレッシャーと3領域間の偏りに明確な関係がない

標本が小さいため、p値だけでなく、rhoの方向と大きさを中心に解釈する。

10.5 高受験プレッシャー下でもバランスは保たれるか

高受験プレッシャー層における3領域の偏り
状態 人数 割合
高受験プレッシャー層 12 100.0
3領域の偏りなし(gap = 0) 2 16.7
3領域の偏りが比較的小さい(gap 2以下) 5 41.7
3領域の偏りが大きい(gap 4以上) 4 33.3

高受験プレッシャー層は12名であり、そのうち 5名 は、3領域間の得点差が2以下であった。

ここで用いた「gap 2以下」は、比較のために設定した探索的な基準であり、理論的に確立された基準ではない。人数だけでなく、得点の分布や相関係数とあわせて解釈する必要がある。

10.6 3領域の可視化

3領域の相対的な強み。0は3領域内で中立的な位置を示す。

3領域の相対的な強み。0は3領域内で中立的な位置を示す。

受験プレッシャーと3領域間の偏り。縦軸が高いほど特定領域への偏りが大きい。

受験プレッシャーと3領域間の偏り。縦軸が高いほど特定領域への偏りが大きい。


本レポートは全回答者N=24の探索的分析である。3領域の相対的な強み・バランスの分析については、指定どおり回答したN=21のみを使用した。回答者は全員が日本の高校を卒業しているため、結果は日本の高校卒サンプル内の知見として解釈する必要がある。