1 はじめに

  • 本資料では、日・シンガポールEPA(2002年11月発効、2007年9月改正議定書発効)を例にして、Rのfixestパッケージを用いて、重力モデルによる貿易促進効果の分析方法を示す。
  • 日本は、これまで多くの国・地域と経済連携協定(EPA)を締結してきた。以下に、日本が締結した主なEPAを示す。
協定名 発効年月 相手国ISO3 備考
日・シンガポールEPA 2002年11月 SGP 2007年9月改正議定書発効
日・メキシコEPA 2005年4月 MEX 2007年4月追加議定書発効、2012年4月改正議定書発効
日・マレーシアEPA 2006年7月 MYS
日・チリEPA 2007年9月 CHL
日・タイEPA 2007年11月 THA
日・インドネシアEPA 2008年7月 IDN
日・ブルネイEPA 2008年7月 BRN
日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定 2008年12月 順次発効
日・フィリピンEPA 2008年12月 PHL
日・スイスEPA 2009年9月 CHE
日・ベトナムEPA 2009年10月 VNM
日・インド包括的経済連携協定 2011年8月 IND
日・ペルーEPA 2012年3月 PER
日豪EPA 2015年1月 AUS
日・モンゴルEPA 2016年6月 MNG
TPP(環太平洋パートナーシップ)協定 2016年2月 署名、日本は2017年1月締結
CPTPP 2018年12月
日EU・EPA 2019年2月
日米貿易協定・日米デジタル貿易協定 2020年1月 USA
日英EPA 2021年1月 GBR
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 2022年1月

2 データ読み込み

  • フランスの研究機関CEPIIが公開しているBACIデータから、HS2桁レベルに集計した2国間貿易データを作成した。輸出国x輸入国x年x品目のパネルデータである。
  • HS96 (1996-2023)版のBACIデータを用いている。
  • Rは、大規模データの操作に不向きなため、データサイズを抑制するために以下のようにデータを加工している。
    • データサイズを減らすために、主要国に限定している。
    • 同じく、農林水産物10品目に絞っている。
  • 分析に用いるデータ( BACI1996_2015.dta)は、ここからダウンロードできる。

以下のいずれかのコードでデータを読み込む。

#baci <- rio::import("BACI1996_2015.dta") 
baci <- rio::import("../Data_output/BACI1996_2015.dta") 

データサイズが大きく、Rがクラッシュする可能性があるため、大規模データの操作に適したdata.tableを使う。

library(data.table)
baci <- as.data.table(baci)

3 データの確認

データは、1996年から2015年までの20年間、10の品目(HS2桁レベル)、約56の国・地域ペアから構成されている。

# yearの分布
barplot(table(baci$year), las = 2)

# 品目数の確認
barplot(table(baci$hs2), las = 2)

 # 品目名の確認
table(baci$description)
## 
##         Animal products n.e.c.                        Cereals 
##                          17780                          15020 
##                         Coffee                 Dairy and eggs 
##                          24840                          20340 
##         Edible nuts and fruits              Edible vegetables 
##                          24680                          23900 
## Fish and aquatic invertebrates                   Live animals 
##                          24320                          14340 
##     Meat and edible meat offal             Plants and foliage 
##                          13460                          18020
# 輸出国の確認
barplot(table(baci$exporter_iso3), las = 2)

length(unique(baci$exporter_iso3))
## [1] 56
# 輸入国の確認
barplot(table(baci$importer_iso3), las = 2)

length(unique(baci$importer_iso3))
## [1] 56

4 日・シンガポールEPAの分析上の設定

  • 日・シンガポールEPA(2002年11月発効、2007年9月改正議定書発効)を例にして、貿易促進効果を分析する。
  • 2002年11月発効のため、2002年以前を処置前期間、2003年以降を処置後期間とする。
  • 処置群は、日本とシンガポール間の貿易、対照群はそれ以外の国間貿易とする。本来は、比較群から、RTAを結んでいる国ペアを除外すべきであるが、ここでは簡便のため省略する。
  • 処置群のユニット数は、日・シンガポールの貿易における品目数である。データのサイズを抑制するため、品目数は農林水産物10品目に絞っている。
  • 処置群が日・シンガポールの国ペアのみであるため、クラスターの数が少なく、標準誤差の推定が不安定になる可能性がある。したがって、推定結果の統計的有意性の解釈には注意が必要である。

5 日・シンガポールEPAの処置変数作成

処置群を表すダミー変数treatedを作成する。日・シンガポール間の貿易の場合に1、その他の場合に0を取る。

baci$treated <- ifelse(
  (baci$exporter_iso3 == "JPN" & baci$importer_iso3 == "SGP") |
  (baci$exporter_iso3 == "SGP" & baci$importer_iso3 == "JPN"),
  1, 0
)

table(baci$year, baci$treated)
##       
##           0    1
##   1996 9818   17
##   1997 9818   17
##   1998 9818   17
##   1999 9818   17
##   2000 9818   17
##   2001 9818   17
##   2002 9818   17
##   2003 9818   17
##   2004 9818   17
##   2005 9818   17
##   2006 9818   17
##   2007 9818   17
##   2008 9818   17
##   2009 9818   17
##   2010 9818   17
##   2011 9818   17
##   2012 9818   17
##   2013 9818   17
##   2014 9818   17
##   2015 9818   17

6 重力モデルの推定

  • ポワソン擬似最尤法(PPML)を用いて、重力モデルを推定する。固定効果として、輸出国×年、輸入国×年、国ペアを指定する。

  • 年別の処置効果を推定するために、i(year, treated, 2002)を用いる。処置前年の2002年を基準年として、各年の処置効果を推定する。

  • 処置群を表す、ダミー変数treatedを用いて、日・シンガポールEPAの貿易促進効果を分析する。

gravity_pois = fixest::fepois(value ~  
                        i(year, treated, 2002) 
                      | exporter_iso3^year + importer_iso3^year + pair , 
                      vcov = ~ exporter_iso3 + importer_iso3,
                      data = baci)
## NOTE: 20/0/0 fixed-effects (20 observations) removed because of only 0 outcomes or singletons.
## Warning: The VCOV matrix is not positive semi-definite and was 'fixed' (see
## ?vcov).
library(modelsummary)
modelsummary::modelsummary(gravity_pois,
             estimate  = "{estimate} [{std.error}] {stars}",
             statistic = NULL, # 係数の下に何も表示しない
             coef_omit = "Intercept|.*factor",
             gof_omit = 'DF|Deviance|Log.Lik.|RMSE|AIC|BIC|R2 Within|R2 Within Adj. ')
(1)
year = 1996 × treated -0.039 [0.158]
year = 1997 × treated -0.208 [0.229]
year = 1998 × treated -0.284 [0.197]
year = 1999 × treated -0.086 [0.130]
year = 2000 × treated 0.318 [0.055] ***
year = 2001 × treated 0.284 [0.065] ***
year = 2003 × treated -0.326 [0.159] *
year = 2004 × treated -0.079 [0.057]
year = 2005 × treated -0.134 [0.061] *
year = 2006 × treated 0.151 [0.120]
year = 2007 × treated 0.376 [0.217] +
year = 2008 × treated 0.653 [0.276] *
year = 2009 × treated 0.473 [0.144] **
year = 2010 × treated 0.560 [0.195] **
year = 2011 × treated 0.726 [0.114] ***
year = 2012 × treated 0.873 [0.121] ***
year = 2013 × treated 0.913 [0.105] ***
year = 2014 × treated 0.971 [0.107] ***
year = 2015 × treated 0.769 [0.215] ***
Num.Obs. 196680
Std.Errors by: exporter_iso3 & importer_iso3
FE: exporter_iso3^year X
FE: importer_iso3^year X
FE: pair X

7 イベント・スタディ・プロット

fixest::iplot(gravity_pois)

8 終わりに

8.1 課題

  • 処置群のユニット数が少ないため、標準誤差の推定が不安定になる可能性がある。
  • 対照群から、他のRTAを結んでいる国ペアを除外することで、より適切な比較が可能になると考えられる。

8.2 他の国とのEPAへの分析の応用

  • 日・スイスEPA(2009年9月発効)の場合は、処置前年を2008年とし、i(year, treated, 2008)とする。スイスのisoコードはCHEである。
  • 日・インド包括的経済連携協定(2011年8月発効)の場合は、処置前年を2010年とし、i(year, treated, 2010)とする。インドのisoコードはINDである。

資料