正規雇用と非正規雇用の威信スコアの差の検定

作者
所属

太郎丸 博

京都大学 文学研究科

公開

2025年7月25日

1 問題

正規雇用と非正規雇用を比べると、賃金、雇用の安定性、フリンジベネフィットなどさまざまな点で正規雇用のほうが労働条件が良いことが知られている。とうぜんそれは威信(人々が感じる地位の高さの平均)にも反映されるだろう。これについては、元治 (2018年) が実証しているのだが、検定がなされていない。ざっと見る限り、正規雇用と非正規雇用のあいだに威信スコアの有意差があると思うが、いちおう念のために検定してみた。

2 データ

表 1元治 (2018年) の表14 (p.26) の一部である。

表 1: 職業別正規雇用と非正規雇用の威信スコアの差(元治 (2018年) より転載)
職業 正規スコア 正規SD 非正規スコア 非正規SD スコアの差
医師 86.2 17.1 77.5 17.0 8.6
薬剤師 69.1 16.9 57.8 19.0 11.3
⼩学校の先⽣ 64.4 16.7 55.6 17.7 8.8
看護師 65.5 17.3 56.5 17.3 9.0
学習塾の先⽣ 57.1 14.9 46.1 18.6 11.0
料理⼈ 54.4 13.3 39.6 15.7 14.8
保育⼠ 50.9 16.6 44.2 17.7 6.7
⾃動⾞組⽴⼯ 48.7 12.1 34.4 19.4 14.3
事務職員 50.1 10.5 34.8 16.9 15.4
訪問介護員(ホームヘルパー) 45.8 18.2 37.6 20.3 8.2
受付事務職員 47.1 10.4 40.6 16.5 6.6
商店の店員 44.4 13.9 32.6 17.7 11.8
タクシー運転⼿ 45.5 15.0 35.6 18.9 9.9
⾷品⼯場の作業員 43.1 15.3 31.1 19.4 12.0
新聞配達員 36.5 19.3 26.3 21.3 10.2
清掃員 36.4 18.0 25.1 20.7 11.3

3 結果

有効サンプルサイズは自分で個票データを見ればわかるが、正規雇用も非正規雇用も 200 と仮定して標準誤差など計算する。表 1 は、サンプルサイズが 224 と 229 の調査のデータだが、質問項目によって欠測が多少あると思われるので、それぞれ \(n= 200\) と仮定して計算した。その結果が 表 2 である。いずれも 0.1% 水準で有意差がある。

表 2: 職業別正規雇用と非正規雇用の威信スコアの差の検定(*** \(p<.001\)
職業 スコアの差 se t p
医師 8.6 1.71 5.04 ***
薬剤師 11.3 1.80 6.28 ***
⼩学校の先⽣ 8.8 1.72 5.11 ***
看護師 9.0 1.73 5.20 ***
学習塾の先⽣ 11.0 1.69 6.53 ***
料理⼈ 14.8 1.45 10.17 ***
保育⼠ 6.7 1.72 3.90 ***
⾃動⾞組⽴⼯ 14.3 1.62 8.84 ***
事務職員 15.4 1.41 10.95 ***
訪問介護員(ホームヘルパー) 8.2 1.93 4.25 ***
受付事務職員 6.6 1.38 4.79 ***
商店の店員 11.8 1.59 7.41 ***
タクシー運転⼿ 9.9 1.71 5.80 ***
⾷品⼯場の作業員 12.0 1.75 6.87 ***
新聞配達員 10.2 2.03 5.02 ***
清掃員 11.3 1.94 5.83 ***

職種によって威信スコアの差にはバラツキがあるのだが、特に明確なパターンは見いだせない。ちなみに \(n=100\) と仮定してもすべて 0.1% 水準で有意差があることに変わりはない。\(t\) 値を見れば明白だろう。

参考文献

元治恵子. 2018年. 「「職業評定および多元的地位指標(職業威信スコア)の基本的特性」」. Pp. 12–29 『雇用多様化社会における社会的地位の測定』, 編集者: 元治恵子. JSPS 15H03414.