大集団内の一般交換: クラブへの OB・OG 寄付における互酬性

太郎丸博・松元萌里香（京都大学）

問題: OG寄付は一般交換か？

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毎年、OB や OG （以下 OG）から多額の寄付を集める大学の運動部やサークル
寄付者は何の返礼ももらえないので、利他行動とも言えるが、一種の一般交換が成立しているのでは?
A大学ドローン部（仮名、以下 A大 D部）の寄付金記録で、互酬性が成り立っていることを実証

一般交換とは?

集団内で贈与ネットワークがあり、長期的には give and take が釣り合う状態（つまり互酬性成立） (高橋, 山岸, and 林 1999)
ただし、金銭に換算できない財やサービスの贈与があると「つり合っている」かどうかはっきりせず
小集団内での互助ネットワークが典型 (Harknett and Hartnett 2011)
ボランティア支援を受けた被災者が、後に自身もボランティアする、といったリレー式のサポート連鎖も (三谷 2015)。

一般交換の性質

返礼できない困窮者がサポートネットワークから脱落したり (Harknett and Hartnett 2011)、従属的地位に転落したり (Blau 1964)、
フリーライダーが増加すると集団そのものが崩壊したり。
ゆえに規模が小さく、相互監視が容易で (Hechter 1987)、均質性が高く、情緒的な紐帯の強い集団で成立しやすい。

大集団での一般交換

A大 D部は、1000人以上の OG を擁し、近年では年間 1000万円以上寄付を集める
均質性や情緒的紐帯は強いが、規模大、監視困難、タダ乗り容易
この集団で一般交換が成立するならば、かなり珍しい事例では?
この事例で互酬性が働いていることを示し、寄付が単なる利他行動ではなく、一般交換の一種であると主張。

互酬性1: 1st パイロット仮説

A大 D部は、OG からの寄付でドローン等を購入し、大会に出場
競技用ドローンは数十万円～数百万円
現役選手には 1st パイロットと呼ばれる最新・最高のドローンで出場する選手と、型落ちのドローンで出場する一般選手あり
1st は一般選手よりも現役時代に多くの便益を得ている

1st 仮説: 1st パイロットは一般選手よりも、卒業後に多額の寄付をしやすい

互酬性2: 戦績仮説

A大 D部では、全国大会や B大戦が特に重要な試合とされ、これらでよい戦績を残すと、高い達成感を得られ、現役部員や OG から多くの祝福を得られる
良い戦績を残した選手は、そうでない選手よりも多くの精神的便益を得ている

戦績仮説: 良い戦績を残した選手ほど卒業後に多額の寄付をしやすい

互酬性3: 女子マネ仮説

A大 D部にはマネージャがおり、部活動をサポート
マネージャはドローンを操作しないので、寄付の直接的な便益を得ていない
男子マネの大半は元選手だが、女子マネの大半は選手経験なし
A大 D部員の大半は男子で、女子選手も女子マネも周辺的な存在

女子マネ仮説: 女子マネは女子選手、男子選手、男子マネよりも卒業後の平均寄付金が少ない

データ

A大 D部の寄付金記録、 OG名簿、部誌
4年生時の全国大会の成績（順位を逆転させて平均 0 にセンタリング）と、2年生時の B大学との対抗戦の勝敗
寄付金記録を入手できた 1996～2024年7月の間に、戦績のある 1974～2021 年度卒の OG が、卒業から 69歳までのあいだに行った寄付（単位: 百円）を従属変数に。
全員69歳まで生存と仮定
女子選手はまだ少なく、6割が 1st であり、選抜度が低いため、男子の 1st のような特別感がない。そのため、女子選手は全員普通の選手にカテゴライズ。

分析法

毎年の寄付額と寄付時の年齢がレベル1、OG個人の属性をレベル2 とした線形マルチレベル・モデル
R (R Core Team 2024) の lme4 パッケージ (Bates et al. 2015) を用い、制限最尤法 (REML) で推定。表の作成は、knitr パッケージ (Xie 2023)、texreg パッケージ (Leifeld 2013)、vtable パッケージ (Huntington-Klein 2024) を。

表1 個人レベルの記述統計

卒業年度	性別	身分	寄付経験	B大戦勝敗	全国大会戦績
Min. :1974	男:939	一般選手 :491	無し:220	Min. :0.0	Min. :-9.0
1st Qu.:1988	女:132	1st :197	有り:851	1st Qu.:0.0	1st Qu.:-4.0
Median :1999		マネージャ:383		Median :0.0	Median :-1.0
Mean :1999				Mean :0.4	Mean : 0.2
3rd Qu.:2010				3rd Qu.:1.0	3rd Qu.: 6.0
Max. :2021				Max. :1.0	Max. :10.0

表2 寄付の記述統計

Summary Statistics
Variable	N	平均	標準偏差	最小値	第1四分位	中央値	第3四分位	最大値
年間寄付額（円）	21362	8252	13618	0	0	0	15000	200000
寄付時年齢	21362	38	11	22	29	37	46	69
寄付年	21362	2012	8	1996	2006	2013	2019	2024

分析結果

OG の年齢と平均寄付額** （以下のグラフの 95%信頼区間は pooled data で過小に推定）

卒業コーホートと平均寄付額**

寄付年別平均寄付額**

性別、身分別平均寄付額

B大戦勝敗別平均寄付額

全国大会戦績別平均寄付額

表3: 寄付額（百円）のマルチレベル・モデル

Statistical models
	Model 1	Model 2	Model 3	Model 4
切片	78.27^***	49.63^***	52.52^***	48.53^***
	(2.64)	(4.36)	(4.29)	(4.33)
年齢 - 25		1.22^***	1.10^***	1.10^***
		(0.23)	(0.10)	(0.10)
(年齢 - 25)の二乗		-0.00
		(0.01)
女性ダミー		-43.50^***	-42.47^***	15.78
		(8.47)	(8.39)	(14.61)
1st: 一般選手が基準		52.91^***	52.55^***	56.31^***
		(7.09)	(7.02)	(6.99)
マネージャ		21.50^***	20.64^***	31.10^***
		(6.02)	(5.96)	(6.28)
卒業年度 - 2000		-0.18	-0.51^*	-0.47
		(0.24)	(0.25)	(0.24)
B大戦勝利		13.03^**	5.39	6.35
		(5.03)	(5.25)	(5.20)
大会戦績			2.02^***	1.82^***
			(0.44)	(0.44)
女性\(\times\)マネージャ				-82.85^***
				(17.09)
BIC	263617.04	263422.77	263393.89	263373.08
対数尤度	-131793.57	-131661.54	-131647.10	-131631.71
N	21362	21362	21362	21362
OGの数	1009	1009	1009	1009
レベル2 分散	6334.37	5474.17	5348.33	5222.03
レベル1 分散	11936.05	11868.59	11868.73	11868.08
^*p < 0.001; ^p < 0.01; ^*p < 0.05

まとめと議論

1st 仮説、女子マネ仮説は支持、戦績仮説も半分支持
B大戦は 2年生時なので、4年生時の全国大会のほうがはっきり影響が出たかも？
一般交換では、返礼が即時になされる必要はないとはいえ、卒業後数十年にわたって返礼（この事例では寄付）が継続する（しかも時間の経過とともに 60歳ぐらいまでは額が増える）という現象は珍しいのでは？しかも 1000人以上の規模で、タダ乗りが容易
背景には、集団の同質性の高さや感情的紐帯の強さのほかにも、現役マネによる募金活動、学年ごとの同窓会の開催、寄付者の氏名の部誌への掲載、といった仕組みも
しかし、それらを差し引いても興味深い事例では？

文献

Bates, Douglas, Martin Mächler, Ben Bolker, and Steve Walker. 2015. “Fitting Linear Mixed-Effects Models Using lme4.” Journal of Statistical Software 67(1):1–48. doi: 10.18637/jss.v067.i01.

Blau, Peter M. 1964. Exchange and Power in Social Life. New York: John Wiley & Sons Inc.

Harknett, Kristen S., and Caroline Sten Hartnett. 2011. “Who Lacks Support and Why? An Examination of Mothers’ Personal Safety Nets.” Journal of Marriage and Family 73(4):861–75. doi: 10.1111/j.1741-3737.2011.00852.x.

Hechter, Michael. 1987. Principles of Group Solidarity. Oakland: University of California Press.

Huntington-Klein, Nick. 2024. Vtable: Variable Table for Variable Documentation.

Leifeld, Philip. 2013. “texreg: Conversion of Statistical Model Output in R to LaTeX and HTML Tables.” Journal of Statistical Software 55(8):1–24.

R Core Team. 2024. R: A Language and Environment for Statistical Computing. Vienna, Austria: R Foundation for Statistical Computing.

Xie, Yihui. 2023. Knitr: A General-Purpose Package for Dynamic Report Generation in r.

三谷はるよ. 2015. “一般交換としての震災ボランティア.” 理論と方法 30(1):69–83. doi: 10.11218/ojjams.30.69.

高橋信幸, 山岸俊男, and 林直保子. 1999. “一般交換の自発的形成.” 心理学研究 70(1):9–16. doi: 10.4992/jjpsy.70.9.