この文書はミニレポートのサンプルである。

1 問題

服装や髪形、アクセサリの装着、等々は自己表現の一部であるが、社会規範によって厳しく統制される場合がある (Goffman 1959; Witz, Warhurst, and Nickson 2003)。近代社会においては、ビジネスシーンや公的な議論の場(例えば、国会や学会等)においてはなぜか女性的な服装やセクシュアルな服装(例えば、肌の露出が多い、女性的な体形を強調する、フリルやレースを多用する服)は忌避される傾向があるようである(私の実感)。もちろん、必ずしもすべての公的な空間で女性的な服装が忌避されるわけではない。パーティーや儀式の類では、女性的な服装や露出の多い服装が受け入れられる場合もあろうし(パーティーや儀式は前近代的な公共性なのだろうか 1 )、コミックマーケットの会場のように露出の多いコスプレイヤーがいるのが普通という場もあろう。

このように考えると、我々が生活を送る場 scene によって、セクシュアルな女性性の表出は拒否されたり、ある程度許容されたりすると考えられる。場には、自分一人だけや恋人や家族のように非常に親しく、何でもさらけ出せる相手しかいないような場があるだろう。これに対して、それほど親しくない人や知らない人とも接する場もある。前者をプライベートな場、後者を公的な場と呼ぶことにする。公的な場では、職務/役務としてその場で何らかの役割を果たさなければいけない場合と、そうでない場合があろう。例えば、学校の先生は授業中、教師という職務を果たすが、生徒は職務としてその場にいるわけではない。役務中の場合、制服等を着ることも多いし、ドレスコードの類が存在する場合も多いが、いずれにせよ役務中 on duty の場合は、そうでない場合よりも、セクシュアルであったり、女性性の強い服は忌避されやすい、ということではないだろうか(なぜそうなのかはよくわからない)。ただし、風俗産業や女優、モデルなど、セクシュアリティの表出そのものが役務の一部になっている場合は例外であろう。

また、このようなセクシュアルな女性性の表出は、青年期の女性に限られ、子供や中高年の女性がセクシュアルであることは、忌避されがちであるように思える。セクシュアルであることは妊娠の可能性のある女性にのみ許される/期待される、というディストピア的規範ということだろうか (Moradi and Huang 2008)

このような現象に対しては、さまざまな批判があると思うが、いずれにせよ、現行のジェンダー秩序に否定的な人ほど上のような規範にも否定的となることが予測される。ただし、女性がセクシュアルな服装や女性性の強い服装をすることを、性の商品化や客体化として批判する人もいれば、女性の性的な主体性、自己決定権として擁護する人もいる (Hillman 2013)。前者は、どんな場であれ、何歳であれ、セクシーな服装には否定的になりやすかろう。後者は、当事者が自分で選んだのであれば、どんな場であれ、何歳であれ、セクシーな服装をすることを尊重するだろう。ただ、性的主体性を擁護する人であっても、社会の側から、「こういう場でこんな服を着るのは、不適切」といったルールを押し付けられることには否定的であろうから、結局、現行のジェンダー秩序に否定的な人は、服装規範の押し付けには否定的になると予測できる。

2 仮説

上記のように考えれば、以下の仮説が考えられる。

  1. 公的な場では、役務中の場合のほうが、そうでない場合よりも、女性性の強い服装は不適切と判断されやすい。
  2. 若い女性よりも中高年の女性のほうが、女性性の強い服装をすることを不適切と判断されやすい。
  3. 現行のジェンダー秩序に肯定的な人ほど、女性性の強い服装を不適切と判断しやすい。

3 方法・データ

美的労働調査 2024 を用いる。日本に在住する20-59歳の男女が対象で、性別、年齢の同時分布を総務省の 2024年1月1日の推計値に近似させ、性別・年齢で条件づけたときの学歴の分布を、2020年の国勢調査の分布に近似するように割り当てた(クォータ法)。有効回答数は 1000、有効回収率は、スクリーニング調査の依頼数を分母とすると \(1000/5505=18\%\)、スクリーニング調査の回答者数を分母とすると \(1000/1988=50\%\) である。

3.1 実験計画

女性的な服装に対する不適切さの判断は、以下のように尋ねている。

以下の写真のように(写真は割愛)フリルやレースを多用した西洋のお姫様風の服装は、ロリータファッションと呼ばれますが、ロリータファッションやミニスカートの女性が以下のような行動をしたら、あなたはどの程度不適切だと思いますか。

  1. X1 歳の女性が YYY で街を歩く
  2. X1 歳の女性が YYY でロックコンサートに参加する
  3. X1 歳の女性が YYY でスタジアムでサッカーを観戦する
  4. X2 歳の女性教師が YYY で小学生に授業をする
  5. X3 歳の女性市会議員が YYY で市議会に参加する
  6. X2 歳の女性事務員が YYY でオフィスで働く
  7. X2 歳の女性営業社員が YYY で取引先と商談する

選択肢は、「不適切だと思う」、「どちらかというと不適切だと思う」、「どちらとも言えない」、「どちらかというと不適切ではないと思う」、「不適切ではないと思う」の5択である。

X1 には 18~50 の整数、X2 には 22~50 の整数、X3 には 25~50 のうちどれかが等確率で代入される。YYY には「ロリータファッション」と「ミニスカート」のいずれかがそれぞれ 1/2 の確率で代入される。ただし YYY には 「ロリータファッション」と「ミニスカート」のいずれも 1 回以上は代入される。つまり、「ミニスカート」についてばかり尋ねられて、「ロリータファッション」については尋ねられないような回答者が出ないようにしてある。

上の 7つの項目のうち、最初 3つを「役務中ではない」、後の 4つを「役務中」とみなす。

3.2 現行のジェンダー秩序への肯定の度合い

以下の項目で現行のジェンダー秩序への肯定の度合いを測定する。

  1. 回答者の性別: 一般に女性のほうが男性よりも性役割意識が弱く、現行のジェンダー秩序に否定的な傾向があるから
  2. 回答者の年齢: 若い人のほうが既存の古い規範から自由であり、服装や外見についても寛容な傾向が強いから
  3. 高学歴者のほうがリベラルで、現行のジェンダー秩序からも距離をとる場合が多いから
  4. 性役割意識: 性役割意識の強い人ほど現行のジェンダー秩序に肯定的であろう(というか、両者はかなり近い概念である)。具体的には以下の項目で測定する。そう思う (4) ~ そう思わない (0) の5点尺度で、(rev) のついている項目は逆転させた。
    • 母親が外で働いていても、働いていない母親と同じように、温かく、しっかりした母子の関係はつくれる (rev)
    • 母親が外で働いていると、小学校入学前の子供は精神的に傷つくようだ
    • 母親がフルタイムで働いていると、家庭生活は損なわれるものだ
    • 仕事を持つのはいいことだが、女性の多くが本当に望んでいるのは家庭と子どもだ
    • 主婦として家事をすることも、働いて収入を得ることも、同じように充実したものだ (rev)
    • 男性も女性も家計のために収入を得るようにしなければならない (rev)
    • 男性の仕事は収入を得ること、女性の仕事は家庭と家族の面倒をみることだ
表1 性役割意識の相関係数
母子関係 傷つく フルタイム 本望 充実 収入 家族面倒
母子関係 1.00 0.42 0.45 0.20 0.37 0.19 0.26
傷つく 0.42 1.00 0.67 0.40 0.15 0.03 0.38
フルタイム 0.45 0.67 1.00 0.49 0.17 0.00 0.43
本望 0.20 0.40 0.49 1.00 0.07 -0.01 0.52
充実 0.37 0.15 0.17 0.07 1.00 0.14 0.10
収入 0.19 0.03 0.00 -0.01 0.14 1.00 -0.03
家族面倒 0.26 0.38 0.43 0.52 0.10 -0.03 1.00

表1のように、6番目の項目は他の項目との相関が非常に弱いので、それ以外の6項目を足し合わせて、性役割意識の指標とした(クロンバックの\(\alpha=\) 0.76)。

3.3 統制変数

統制変数として、性別、年齢、教育年数と卒業ダミーを用いる。

表2 回答者レベルの独立変数の記述統計(ワイドデータ)
Variable n    平均/比率  標準偏差  Min.  Max.
回答者の性別 1000
… 男 508 51%
… 女 492 49%
学歴 1000
… 中 49 5%
… 高 386 39%
… 短大 203 20%
… 大 331 33%
… 院 31 3%
回答者の年齢 1000 42 11 20 59
性役割意識 1000 8.5 4.2 0 24
表3 ヴィネット・レベルの独立変数の記述統計(ロングデータ)
Variable n    平均/比率  標準偏差  Min.  Max.
TPO 7000
… 街歩 1000 14%
… ロック 1000 14%
… サッカー 1000 14%
… 授業 1000 14%
… 議会 1000 14%
… オフィス 1000 14%
… 商談 1000 14%
ファッション 7000
… ロリータ 3482 50%
… ミニスカ 3518 50%
ヴィネット中の年齢 7000 35 9.2 16 50
不適切判断 7000 1.9 1.5 0 4

4 分析結果

TPO と年齢によって不適切さの判断がどう変わるか示したのが、図1 である。これを見ると、役務中のほうが 1.294 だけ、不適切判断の平均値が高い。年齢に関しても右肩上がりの傾向がみられる。16~21 歳が特に平均値が低いが、16~21 歳は、役務中でない場合についてしか判断してもらっていない(16歳の小学校教師や議員はいないので)ので、TPO の効果が反映しているだけかもしれない。仮説とは直接関係ないが、ミニスカートよりもロリータファッションのほうが全般に不適切と判断されやすいようである。

図1 TPO・ヴィネット中の年齢別 平均不適切さ判断

図1 TPO・ヴィネット中の年齢別 平均不適切さ判断

` 図2 と図3 は、図1 のファッションの代わりに、回答者の属性別に不適切判断の平均値を示したものである。予想に反して、女性のほうが平均値が高い傾向がある。年齢が高いほど、そして、性役割意識が強いほど、不適切判断の平均値が高くなる傾向が見られ、これらは仮説通りである。学歴による差は、はっきりしない。

図2 TPO・回答者属性別 平均不適切さ判断

図2 TPO・回答者属性別 平均不適切さ判断

図3 ヴィネット中の年齢・回答者属性別 平均不適切さ判断

図3 ヴィネット中の年齢・回答者属性別 平均不適切さ判断

回帰分析(マルチレベル・モデル)の結果を示したのが表4 である。図1~3 と同じ結果がここでも再確認できる。私的な場よりも公的な場、ミニスカートよりもロリータファッションのほうが不適切と判断されやすい。ヴィネット中の年齢も、回答者の年齢も、正の有意な値を示しているが、それらの二乗は有意ではないので、いずれも年齢が上がるほど概ね線形に不適切判断されやすくなっている。また、回答者が女性のほうが不適切と判断しやすいが、学歴は有意ではなかった。

役務中かどうかによる不適切判断の差を検定しておこう。帰無仮説は表4 の model 2 の役務中の係数の平均値 \(=\) 非役務中の係数の平均値である。Wald 検定すると、\(X^2 =\) 2826.2 (\(df =\) 1) で、0.1% 水準で有意な差がある。

表4 不適切さ判断の回帰分析(マルチレベル・モデル)
  Model 1 Model 2
(Intercept 1.89*** 1.00***
  (0.03) (0.07)
tpoロック   -0.15***
    (0.04)
tpoサッカー   0.12**
    (0.04)
tpo授業   1.33***
    (0.04)
tpo議会   1.25***
    (0.04)
tpoオフィス   0.99***
    (0.04)
tpo商談   1.33***
    (0.04)
q30fashionミニスカ   -0.16***
    (0.02)
ヴィネット中の年齢   0.02***
    (0.00)
ヴィネット中の年齢^2)   -0.00
    (0.00)
回答者性別:女   0.34***
    (0.06)
回答者年齢   0.01***
    (0.00)
回答者年齢^2)   0.00
    (0.00)
性役割意識   0.05***
    (0.01)
回答者学歴:中   0.00
    (0.14)
回答者学歴:短大   0.02
    (0.08)
回答者学歴:大   0.11
    (0.07)
回答者学歴:院   0.23
    (0.18)
BIC 23688.66 20975.34
Log Likelihood -11831.05 -10399.13
Num. obs. 7000 7000
Num. groups: No 1000 1000
Var: No (Intercept) 0.73 0.74
Var: Residual 1.38 0.85
***p < 0.001; **p < 0.01; *p < 0.05

5 議論

仮説1、仮説2は支持され、役務中で、高齢になるほど女性性の強い服装は不適切と判断されやすいという結果であった。仮説3 は指標によって結果が異なっていた。回答者の年齢が高いほど、そして、性役割意識が強いほど、女性性の強い服装に対して、厳しく判断していた点は、仮説通りであったが、学歴は有意ではなく、性別は予測とは逆にむしろ女性のほうが厳しく不適切と判断していた。一般に高学歴者のほうが再分配政策を支持したり、差別に反対したりする点ではリベラルであるが、外見に関しては意外と保守的、というのは他の分析結果と共通している (張 and 太郎丸 2024)。女性のほうが厳しいのは、女性のほうが男性よりも女性の服装を熱心にモニタリングしている (Montemurro and Gillen 2013) ということの表れかもしれない。

文献

Goffman, Erving. 1959. The Presentation of Self in Everyday Life. Garden City, N.Y.: Doubleday.
Hillman, Betty Luther. 2013. ‘The Clothes i Wear Help Me to Know My Own Power’: The Politics of Gender Presentation in the Era of Women’s Liberation.” Frontiers: A Journal of Women Studies 34(2):155–85.
Montemurro, Beth, and Meghan M. Gillen. 2013. “How Clothes Make the Woman Immoral: Impressions Given Off by Sexualized Clothing.” Clothing and Textiles Research Journal 31(3):167–81. doi: 10.1177/0887302X13493128.
Moradi, Bonnie, and Yu-Ping Huang. 2008. “Objectification Theory and Psychology of Women: A Decade of Advances and Future Directions.” Psychology of Women Quarterly 32(4):377–98. doi: 10.1111/j.1471-6402.2008.00452.x.
Witz, Anne, Chris Warhurst, and Dennis Nickson. 2003. “The Labour of Aesthetics and the Aesthetics of Organization.” Organization 10(1):33–54. doi: 10.1177/1350508403010001375.
張亮., and 太郎丸博. 2024. 外貌調整行為に対する寛容度の影響要因.” 第77回数理社会学会大会.

  1. 学校、オフィス、議会のような前近代社会においては、お姫様やお嬢様は公的な場でも非常に女性的な服装で現れるのが一般的なイメージがある。特にセクシー、セクシュアル、とされる服装は不適切と考えられるような気がする(男性の場合は?)。近代社会では、男性的であることが公的な場ではふさわしい、ということだろうか。↩︎