因果関係 causal relation と反実仮想 counter factual

因果とは何かについては哲学的な議論があるが、統計的には反実仮想で定義するのが主流。
- A が起きたせいで B が起きた、とは、A が起きなければ B が起きなかった、という意味
- A が高まったせいで、B が下がった、とは A が高まらなければ B は下がらなかった、という意味
例1：X さんが乱暴を働いたのは、X さんが男だからだ \(\rightarrow\) X さんが女だったら乱暴は働かなかった
例2: X さんの収入が高いのは、Xさんは頭がいいからだ \(\rightarrow\) X さんが頭が悪かったら収入は低かった

因果推論 causal inference

因果関係があるかどうか、あるいは、因果的な効果がどの程度あるか、を推測すること
「理想」を言えば、歴史を巻き戻して原因を取り除き、結果が変わるか観察したい
- タイムマシーンで過去に戻り、X さんに性転換手術を受けさせた後、乱暴を働くかどうか観察する
- 　　　　　　　〃　　　　　　X さんの脳にダメージを与えて頭を悪くし、その後の収入を観察する
上の「理想」は現代の科学では不可能なだけでなく、倫理的にも許されない

現実的な因果推論

次善の策として、原因となる要因以外の点では当該事例とよく似た事例を探し、結果を比較する
- 性別以外は X さんとよく似た女性を探し出し、彼女が乱暴を働くか観察する
- 頭のよさ以外は X さんとよく似た人を探し出し、その人の収入を調べる
- しかし、実際には原因となる要因以外まったく同じ事例を見つけるのは非常に難しい
上の例では、2つの事例を比較することを想定したが、原因となる要因を持っている事例と持っていない事例をそれぞれ複数用意し、両グループを比較するのが一般的。前者を処置群 treatment group、後者を統制群 control group と呼ぶことも。

個体因果効果 individual causal effect と平均処置効果 average treatment effect

「X さんが乱暴を働いたのは、X さんが男だからだ」は X さんという個人に関する因果関係についての言明
「カフェインを飲むとプラシーボを飲んだ場合よりも計算問題の平均点が上がる」は、複数の被験者に対する平均的なカフェインの効果に関する言明
カフェインの効果も被検者によって個人差がある可能性が高い
しかし、すでにみた（タイムマシーンで…）ように個体因果効果（個体処置効果ともいう）の推定は不可能
推定できるのは平均因果効果だけ

歴史社会学と因果推論

国家など事例数が少ない場合、因果関係は推定が困難と言われることが多い
- 資本主義が発生する原因は？民主主義が成長する原因は？
実験できないし、「類似」の事例はない、と考える研究者がかなりいるから
- 類似していないと、違いすぎて何が原因なのかよくわからないから
近年はパネルデータを使って推測する試みも多いが (Kollmeyer 2009; Lee, Kim, and Shim 2011; Schofer 2004)、完全には交絡要因を統制できない。

実験 experiment と調査 survey

特定の要因を操作 manipulate することで因果関係への洞察を与えるような、仮説検証 hypothesis test のためのデータ収集作業を実験という。
研究者が介入していない状態を観察したり、尋ねたりするのが調査
ちなみに質的研究では survey という語は使われず research を調査とか研究とか訳して使うことが多いみたい。ググって調べものをすることを research と言ったり、文献調査を literature survey と言ったり、用法にあまり一貫性はなさそうなので、文脈に応じて解釈すべし

実験の例

被験者の半分にカフェイン、残りの半分にプラシーボを摂取させて計算問題を解かせ、点数を記録し、その平均や分散を比較
実験者が特定の要因を操作する（この例では「被検者の半分にカフェイン、残りの半分にプラシーボを摂取させ」る）ことを、処置／処理 treatment という
通常、どの被検者に何を摂取させるかは、くじ引きや乱数を使ってランダムに割り当て

調査と実験の違い：交絡要因 confounding factor, confounder

被検者に過去1時間以内にコーヒーなどのカフェインを含む飲料を摂取したかどうか尋ね、そのあとに数学の問題を解いてもらい、カフェインを摂取した人としなかった人の平均点を比較することもできる（調査）、
カフェイン摂取と交絡する要因があるかも（例えば、賢い人ほどカフェインを多く摂取する傾向）
このように処置に影響し、結果にも影響する要因を交絡要因という
交絡要因があると、単純に実験群と統制群の平均値や分散を比較しても、処置の因果的な効果の推定は歪む
調査で交絡要因を完全に除去するのは難しいが、適切に計画された実験なら可能

適切な実験が満たすべき条件: SUTVA

Stable Unit Treatment Value Assumption (SUTVA) が実現されないと推定が歪む可能性あり
SUTVA とは、
- 相互干渉がない: 例えば、被検者がカンニングする、隣の人に影響されてやる気になる、と相互干渉している
- 個体に対する隠れた処置がない：例えば、教室の前のほうに座っている人を処置群、後ろのほうに座っている人を統制群とすると、隠れた処置＝座っている場所である
隠れた処置が結果に影響する場合、それは交絡要因となる

適切な実験が満たすべき条件: 識別性

正値性 positivity: すべての被検者について、処置群にも統制群にもなる可能性があること（当たり前）
割り付けの独立性: 結果と割り付けが独立（相関がない）
上記の二つ、および隠れた処置の排除は、ランダム割り当てがうまくいっていれば実現できる

ランダム割り当て／割り付け random assignment

「ランダム」というのは「確率的に」という程度の意味だが、しばしば等確率かつ Independently Identically Distributed (IID) ・の意味で用いられている
等確率とは処置群と統制群に割り振られる確率は等しい、という意味。処置群が複数ある場合もあるが、\(1 \div 群の数\) の確率ですべての群のサンプルサイズが等しくなるようにするのが一般的
- 等確率でなくても交絡は排除できるが、等確率だと誤差が最小になる
Independently とは、カフィインを摂取するかどうかは、他の事柄とはまったく関係なく確率 0.5 のくじ引きできまる、という意味。
- 逆に独立でないとは、「前の被験者がカフェインを摂取したので、次の被験者はプラシーボに」とか、「今日は天気がいいのでプラシーボの接種者を少し多めに」、「前のほうに座っている人を処置群に」、というように、条件によってカフェイン／プラシーボを割り当てる確率を変えること
identically とは、 すべて の人に関して、1/2 の確率でカフェイン、1/2 の確率でプラシーボを割り当てる、という意味
- 逆に同一でないとは、aさんは 60%の確率でカフェイン、bさんは 40%の確率でカフェイン、というように人によって割り当てる確率を変えること

ランダム割り当てによる交絡要因の排除

計算問題の正答率に影響する要因は色々あるだろうが、ランダム割り当てを行うと、処置と影響要因の相関はほぼゼロになるので、影響要因は処置と交絡しない、
つまり、処置の効果を正確に推定できる
影響要因をすべて検討しないと処置の効果を正確に推定できないという人がいるが、これは間違い
ランダム割り当てとランダム・サンプリングを混同する人もいるが、これも間違い
- ランダム割り当てを行ってもデータの代表性は高まらない
- 例えば、成人で行った実験結果が、幼稚園児にも一般化できるとは限らない
- 逆にランダムサンプリングしても交絡は排除できない

社会学での実験の例：ニセ履歴書実験

求人を出している企業に応募のニセ履歴書を送る
一つは白人らしい名前、もう一つは黒人らしい名前の履歴書で、それ以外の情報（性別、年齢、経歴、等など）はほぼ同じスペックに
これらを多数の求人企業に送りつけ、白人名と黒人名のどちらが面接に呼ばれやすいか調べる
最近の類似の研究として Rivera and Tilcsik (2016), Thomas (2018), Marquis, Tilcsik, and Zhang

実験のデメリット

サンプルが偏りがち
- 若い被検者で検証された因果関係が高齢者にも一般化できるとは限らない
- 被検者を母集団から無作為抽出することは可能だが、コストがかかりすぎて現実的でない場合も多い
実験室や架空の設定下で検証された因果関係が日常生活でも同じように生じるとは限らない
- 例：セクハラ不快感サーベイ実験
- フィールド実験（後述）は例外

内的妥当性 internal validity と外的妥当性 external validity

ある推論がサンプルに関して正しい場合、内的妥当性がある、
ある推論がサンプル以外の事例（理想的には母集団全体や類似の様々な状況）にも正しい場合、外的妥当性がある、という
実験はよく計画されていれば因果関係について内的妥当性を得られやすいが、サンプルが偏っていたり、特殊な条件下でのみ成立する場合があるため、外的妥当性はよくわからない
- 代表性の高いサンプルで、条件を色々変えても同様な結果が得られるか調べないと頑健 robust な結果は得られない

頑健性 roubustness

調査や実験の結果は、対象者や調べ方、分析法、等々、の条件によって変わってくることは珍しくないが、
条件を変えても、実質的に同様の結果が得られる場合、頑健である robust という

統計的人工物 statistical artifact

逆にデータの収集や処理、モデル、推定法、等々が不適切であるせいで、誤った印象や解釈を導いてしまう場合、そのような不適切な分析結果を統計的人工物、統計的アーティファクトという。
- artifact に定訳見つからず。「統計的捏造」がわかりやすいが、原語よりきつすぎる気が
ある分析結果が統計的人工物かどうかは、分析者の意図とは関係ない
- 例えば、故意でも過失でも、不適切な分析結果から不適切な結論を導いていれば、その結果は統計的人工物とみなされる

意味解釈 vs 一般化／法則定律？

質的研究は意味の解釈が目的で、量的研究は一般化や法則の定立が目的とあるといった説明をする教科書は多い印象
この説明は質的研究は意味解釈の内的妥当性が高い、と言っているともとれる
ただ、意味解釈と一般化は矛盾しないので、両者を対立させることに無理がある
そもそも意味解釈とは何か、について教科書ではわかりやすい説明がない
- 解釈学などを持ち出す人もいるが、ちゃんと理解してる質的研究者がどれぐらいいるのだろうか？
量的研究でも意味を解釈するのが普通 (盛山 2004)
実際にはあいまいに一般化している質的研究もあるし、特に一般化を主張しない量的研究もある
これらを鑑みると、解釈と一般化の二項対立図式は捨てたほうが良いと思う

実験室実験とフィールド実験

錯視に関する心理学実験のように、実験室に被験者に来てもらって行う実験を実験室実験、ニセ履歴書実験のように実社会の中で行う実験をフィールド実験という
前者では被検者は自分が実験に参加していることを自覚しているが、後者では自覚していない場合も多い。
ニセ履歴書実験のような実験を audit study （監査研究？）と呼ぶ人たちもいるが (Gaddis 2018)、定義ははっきりしない
サーベイ実験のように、当事者は実験に参加していることを自覚しているが、実験室には来ない実験も

自然実験 natural experiment

実験者による介入ではなく、自然や当該システムの外部から来るショックによって、あたかも介入／操作が行われたような変化が起きたときに、その前後の変化を見ること
操作ではなく「ショック」そのものが結果に影響を及ぼす場合もあるので、通常の実験よりも解釈は難しい

自然実験の例：居住地と再犯率

前科者は前科の無い人より犯罪を犯す確率が高いと言われているが、前科者は出所後も犯罪多発地区に住むことが多く、そのような地域に住むことが再犯率を高めていることは繰り返し指摘されている
しかし、地域が再犯率を高めているのか、再犯の意思のある者が犯罪多発地区に住むことを選ぶのかは識別困難
そこで、 Kirk (2009) はハリケーン・カトリーナで被災して、犯罪多発地区から別の地区に移住した仮釈放者の再犯率を調べた
犯罪多発地区に住み続けた仮釈放者よりも、別の地区に移住した人のほうが有意に再犯率が下がった
処置は居住地、外在的ショックがハリケーン被災
ただ、「移住」は必ずしも強制ではないので、足を洗いたがっていた人が移住しやすかったのかもしれないし、他地域でも生活できるスキルのある人が移住したかもしれないので、解釈は微妙

自然実験の例：社会主義と性役割意識

政府が政策によって人々の価値観をどの程度操作できるのかについては論争がある
Ebner, Kühhirt, and Lersch (2020) によると、統合前の東ドイツは当時の西ドイツよりもジェンダー平等主義的価値観が強かったが、統合後にはやや弱まった（が、依然として西ドイツよりも平等主義的）
以上のような結果は、社会主義に、西ドイツの保守主義レジームよりもジェンダー平等主義的価値観を高める効果があったことを示す
東独と西独を分割したは米ソ冷戦であり、ジェンダー平等主義を作り出していた社会システムの外から来たショックと考えられる
できれば分割前のジェンダー平等主義の程度もわかるとなお説得力があろう

複数の原因と交互作用効果 interaction effect

ある現象を引き起こす原因は複数ありうる
例えば、大学進学率を高める遺伝的な特性があると言われているが、だからと言って、教育に大学進学率を高める効果がないというわけではない。両方効果があると考えられている
また、ある要因の因果的効果の大きさは別の要因によって変わる場合もある。このようにある要因の効果が別の要因によって変わってくる（調整される moderated）場合、交互作用効果があるという。
それゆえ、上の例のように交互作用効果を考慮せずに計算した実験群と統制群の差（例えば、計算の正答率の差）を平均処置効果 mean treatment effect と言う

交互作用効果の例

Herd et al. (2019) によれば、1950年以前に高校を卒業した世代では、女性は差別されていたので、大学に入学しやすい遺伝的特質を持っている女性とそうでない女性のあいだの大学進学率の格差は男性よりも小さかったが、1950年以降に高校を卒業した世代では女性も男性並みに遺伝的な特質の効果が生じるように
時代による女性差別の強さの違いが、遺伝的特質の効果を調整した例
- ただし、遺伝的特質は親の社会的地位などの環境要因と交絡するので、どの程度正確かは不明
- 遺伝的特質を「才能」というなら、女性が「才能」を生かせるようになって良かった、というべきだが…

生態学的推論 ecological inference

グループレベルの相関から、個人レベルの相関を導くこと。
結果論としては正しい場合も多いが、論理的には誤り。
例：カトリック信者の比率が高い地域ほど自殺率が低い、という地域レベルの相関から、カトリック信者のほうがプロテスタントの信者より自殺しにくい、と推測すること (Durkheim 1897) 。
論理的には、プロテスタント信者の多い地域ほど、カトリック信者の自殺率が高い（例えばカトリックが迫害される）とか、カトリックの多い地域では、カトリックだけでなく、プロテスタントの自殺率も低い（例えば相互扶助が盛んなので自殺しにくい）という可能性もある

「動機」や「きっかけ」は証拠として弱い場合も

卒論などでよく「なぜ\(\cdots\cdots\)するのか当事者にインタビューして明らかにしたい」という人が
これは動機やきっかけを聞いていると思われる
「なぜ法律家になろうと思ったのか」と尋ねられて、「法律が好きだから」「法律をまなぶのが楽しいから」「法学の先生は私の話を遮らずに最後まで聞いてくれたから」といった答えが返ってきても、反実仮想的な意味ではそれらが原因となっていないかもしれない
こういったインタビューは研究の端緒としては有用かもしれないが、証拠としては弱い

おまけ：アクション・リサーチ

研究者と当事者が協力して、現状の改善や問題の解決法を研究すること
社会学ではマレだが、社会福祉や防災、防犯などの研究で見かける
参与観察は当事者との関係が密なので通常の調査よりも、ややアクション・リサーチに近い（が、問題解決法の研究など見たことない）
アクション・リサーチの中で実験がなされる場合もあり、この場合の research は「調査」というよりも「研究」と訳したほうがよさそう

文献

Durkheim, Emile. 1897. Le Suicide: Étude de Sociologie. Paris: Les Presses universitaires de France.

Ebner, Christian, Michael Kühhirt, and Philipp Lersch. 2020. “Cohort Changes in the Level and Dispersion of Gender Ideology after German Reunification: Results from a Natural Experiment.” European Sociological Review 36(5):814–28. doi: 10.1093/esr/jcaa015.

Gaddis, S. Michael, ed. 2018. Audit Studies: Behind the Scenes with Theory, Method, and Nuance. Springer.

Herd, Pamela, Jeremy Freese, Kamil Sicinski, Benjamin W. Domingue, Kathleen Mullan Harris, Caiping Wei, and Robert M. Hauser. 2019. “Genes, Gender Inequality, and Educational Attainment.” American Sociological Review 84(6):1069–98. doi: 10.1177/0003122419886550.

Kirk, David S. 2009. “A Natural Experiment on Residential Change and Recidivism: Lessons from Hurricane Katrina.” American Sociological Review 74(3):484–504.

Kollmeyer, Christopher. 2009. “Explaining Deindustrialization: How Affluence, Productivity Growth, and Globalization Diminish Manufacturing Employment.” American Journal of Sociology 114(6):1644–74.

Lee, Cheol-Sung, Young-Bum Kim, and Jae-Mahn Shim. 2011. “The Limit of Equality Projects: Public-Sector Expansion, Sectoral Conflicts, and Income Inequality in Postindustrial Economies.” American Sociological Review 76(1):100–124.

Marquis, Christopher, Andras Tilcsik, and Ying Zhang. “Attractiveness and Attainment: Status, Beauty, and Jobs in China and the United States.” American Journal of Sociology 0(ja):null. doi: 10.1086/729834.

Rivera, Lauren A., and András Tilcsik. 2016. “Class Advantage, Commitment Penalty: The Gendered Effect of Social Class Signals in an Elite Labor Market.” American Sociological Review 81(6):1097–1131. doi: 10.1177/0003122416668154.

Schofer, Evan. 2004. “Cross-National Differences in the Expansion of Science, 1970–1990.” Social Forces 83(1):215–48.

Thomas, Kyla. 2018. “The Labor Market Value of Taste: An Experimental Study of Class Bias in u.s. Employment.” Sociological Science 5(24):562–95. doi: 10.15195/v5.a24.

今井耕介. 2018. 社会科学のためのデータ分析入門　（上）（下）. 岩波書店.

盛山和夫. 2004. 社会調査法入門. 有斐閣.

高橋将宜. 2022. 統計的因果推論の理論と実装: 潜在的結果変数と欠測データ. 共立出版.

相関と因果・疑似相関

相関関係はあるが因果関係は想定できない例

疑似相関 spuriousness