背景：美的労働 aesthetic labor

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労働には服装や髪形、化粧、等々、外見を整え、適切に提示するという側面も (Mears 2014; Williams and Connell 2010)
雇い主は、労働者に制服を着せたり、ドレスコード等によって適切な外見を整えさせる
労働者の服装は、広告や商品や事業所、等々と同様に、身体を持たない企業の自己呈示の一部 (Witz, Warhurst, and Nickson 2003)
そのような美的労働が労働者の意識にどのような影響を及ぼすのか?

理論1 服装と社会意識

服装、髪形、メイクといった外見が相互行為や人々の感じる印象や意識に影響を与えることは広く知られている (Goffman 1959; Kodžoman 2019)
服装が、その服を着ている人を見ている他者に及ぼす影響については、非常に多くの研究があるが、その服を着ている本人にも影響があることが知られている（次スライドへ続く）

着装認知 Enclothed Cognition

Adam and Galinsky (2012) によると、服が持っているイメージや象徴的意味は、着装者の自己イメージに影響を及ぼし、自己認知、アイデンティティ、行動に変化を生じさせる
- 服のイメージを体現するような方向
- 服を見る人への影響ではなく、服を着ている人自身への影響
- 類似の議論として Embodied Cognition も：身体の状態が認知に影響する
  - 身体をきれいにすると道徳的にも浄化されたと感じやすい
  - 聴衆にうなづくように指示すると、話の内容にも納得しやすい
  - 身体が物理的に暖かいと人の心の温かさも感じやすい

着装認知の例

黒いユニフォームを着ると agressive になる (Frank and Gilovich 1988)
就活で着るようなフォーマルな服を着ると具体的なものを一般的カテゴリに結びつけて考えるようになる (Slepian et al. 2015)
　　　　　　　　　〃　　　　　　　　　自分のことを neat, cultivated, accurate, restrained, strategic などと感じるようになる (Hannover and Kühnen 2002)
警官の制服を着るとパーカーを着た（社会的地位の低そうな）人に注意を向けるようになる (Civile and Obhi 2017)
今回は仕事で制服を着ることが権威主義的態度を高めるか検証

着装認知と仕事着

着装認知理論に従えば、制服の持っているイメージにあった意識を持ちやすくなる
制服は組織の一員として、上司の指示や組織のルールに従って働いていることをイメージさせるだろうから、権威主義的になるのでは？
制服でなくても、上司と同じような服を来ていれば、組織の一員というイメージが強まり、権威主義的になるのでは？
こういった着装の影響は自尊心の低い人にしか生じないという説も (Ishii, Numazaki, and Tado’oka 2019)

理論2: 仕事の自律性と権威主義

仕事の自律性が低いほど権威主義的態度が強まりやすいという説は根強い (Kohn 1969 (1989); Stanojevic, Akkerman, and Manevska 2020)
ただあまりきちんと実証した結果は見かけたことがない
服装は単なる自律性（仕事のやり方の自由度が高い）、というだけでなく、アイデンティティや自己表現と結びついているので、服に関する自律性は特別な意味を持っているかも？

仕事服の3類型

制服
服種指定（制服はないが、どんな服を着るかだいたい決められている、例えば、スーツ、黒パンツに白シャツに店のエプロン）
服自由

仮説

制服の人は服種指定の人よりも権威威主義的に、服種指定の人は服自由の人よりも権威主義的になりやすい
上司と同じ服を着ている人ほど権威主義的になりやすい
服装や外見について、上司等からチェックされているほど（自律性が低いので）権威主義的になりやすい

データ

2022年3月実施、21～64歳の有業の男女、性別と従業上の地位（正規、非正規、自営）で調査会社モニターから割り当てサンプリング
有効回答数 999、回収率 39%（スクリーニング調査の依頼数を分母として計算）
年齢の分布が偏っている点に注意（平均 49.3 歳）
農林漁業は 3 人なので分析から除外、自営業も除外 (\(N=954\))。
データについては報告書 (太郎丸 2022) を参照

従属変数：権威主義

以下の4項目への賛否を5件法でたずね単純加算。クロンバックの \(\alpha =0.805\)

権威のある人々にはつねに敬意をはらわなければならない
以前からなされてきたやり方を守ることが、最上の結果を生む
伝統や慣習にしたがったやり方に疑問をもつ人は、結局は問題をひきおこすことになる
この複雑な世の中で何をなすべきか知るいちばんよい方法は、指導者や専門家にたよることである

主な独立変数1: 仕事服

「あなたはその職場でどんな服装をしていますか。在宅勤務もある方は出勤したときの服装について教えてください」

私服（服装自由）:　基準カテゴリ
私服だが服の種類などが指定されている（黒いパンツに白いシャツとか、スーツ着用とか）
制服や作業服が決まっている
その他（）

「その他」は自由回答があれば 1～3 のいずれかにアフターコード、それ以外は欠損値に

主な独立変数2: 上司の服装

「それではあなたの上司または上司にあたる人はどんな服装をしていますか」

自分と同じような服装:　基準カテゴリ
スーツ
制服
その他

その他で「制服」とした人はアフターコードで「制服」に変更、回答者本人も制服の場合はさらに「自分と同じ」に変更。

主な独立変数3: 外見チェック

「あなたの上司や先輩はあなたや同僚の服装や髪型などの外見をチェックしていると思いますか」

チェックしていると思う
以前はしていたかもしれないが、最近はしていないと思う
チェックしていないと思う
上司も同僚もいない
わからない
その他

「チェックしている」のとき 1 それ以外の場合 0 とするダミー変数を作成

統制変数

接客頻度「あなたはお仕事で、顧客に対面で接することがありますか」-1 = ほとんど接しない, 0 = たまに接する, 1 = よく接している
外見自己評価「同年代の同性の人と比べたときの、あなたの容姿に関する自己評価を教えてください」顔、スタイル、清潔感、オシャレ、肌、について 5件法で。因子分析（最小二乗法1因子解）で因子得点（回帰法）を計算
頭髪や体毛の手入れ時間（1日平均）
美容院、理容院の利用頻度とそのための出費をZ得点に変換して加算. \(\alpha =\) 0.74
仕事の自律性【自分の仕事の内容や仕事のペースを自分で決めたり変えたりすることができる】【職場全体の仕事のやり方を決めたりするのに発言権がある】【自分の都合で自由に休みをとったり早退したりすることができる】【いつも同じことをくりかえすのではなく、さまざまな種類のことをしている】4件法、因子分析（最小二乗法1因子解）で因子得点（回帰法）を計算
性別、年齢、学歴、職業

分析法

通常の最小二乗法 (OLS)
男女別にも分析したが、主な独立変数の効果に有意な男女差は見られなかったので合わせて分析
多重代入法（ブートストラップEMアルゴリズム, \(m=20\)）(高橋 and 渡辺 2017)。R (R Core Team 2024) の Amelia package (Honaker, King, and Blackwell 2011) 1.8.2 を使用（リストワイズよりちょっとだけ標準誤差が下がる）

記述統計

性別	仕事服	上司服	上司の外見チェック	本人学歴	本人職業
男:506	私服 :395	同じ :582	無し :630	中高:193	事務 :344
女:446	服種指定:170	スーツ:297	外見チェックあり:279	短大:219	専門 :211
	制服 :387	その他: 18	NA’s : 43	四大:477	管理 : 58
		制服 : 12		院 : 63	サービス :161
		NA’s : 43			保安 : 9
					マニュアル:169

権威主義	年齢	理髪	整髪時間	外見自己評価	接客頻度
Min. : 0.0	Min. :21	Min. :-1.406	Min. : 0	Min. :-1.649	Min. :-1.0
1st Qu.: 6.0	1st Qu.:43	1st Qu.:-0.816	1st Qu.: 10	1st Qu.:-0.603	1st Qu.:-1.0
Median : 8.0	Median :50	Median :-0.312	Median : 10	Median : 0.075	Median : 0.0
Mean : 7.2	Mean :49	Mean : 0.014	Mean : 15	Mean :-0.011	Mean :-0.1
3rd Qu.: 9.0	3rd Qu.:57	3rd Qu.: 0.678	3rd Qu.: 20	3rd Qu.: 0.532	3rd Qu.: 1.0
Max. :16.0	Max. :64	Max. :31.930	Max. :180	Max. : 2.666	Max. : 1.0
		NA’s :34

分析結果1: 仕事時の服装別、権威主義の平均値

エラーバーは 95% 信頼区間、欠損値はリストワイズ処理

上司の服装別権威主義の平均値

エラーバーは 95% 信頼区間、欠損値はリストワイズ処理

上司が外見をチェックしていると思っているかと権威主義

回帰分析の結果

	Model 1	Model 2	Model 3
切片	6.67^***	6.41^***	8.01^***
	(0.18)	(0.20)	(0.66)
服種指定: 自由が基準	0.10	0.08	-0.03
	(0.28)	(0.27)	(0.28)
制服	0.59^**	0.68^**	0.52^*
	(0.22)	(0.22)	(0.24)
上司スーツ: 同じ服が基準	0.52^*	0.54^*	0.60^**
	(0.22)	(0.21)	(0.22)
上司その他	-0.98	-0.71	-0.62
	(0.70)	(0.69)	(0.69)
上司制服	-0.42	-0.14	-0.11
	(0.84)	(0.83)	(0.84)
外見チェック有り	0.52^*	0.47^*	0.46^*
	(0.22)	(0.21)	(0.22)
外見自己評価		0.39^***	0.38^***
		(0.11)	(0.11)
整髪時間		0.01^*	0.01^*
		(0.01)	(0.01)
理髪		0.18^**	0.17^**
		(0.06)	(0.06)
女性ダミー			-0.26
			(0.22)
年齢			-0.03^*
			(0.01)
短大: 中高が基準			0.01
			(0.30)
四年制大学			-0.22
			(0.27)
大学院			0.03
			(0.45)
接客頻度			0.19
			(0.12)
仕事の自律性			0.07
			(0.12)
専門: 事務が基準			-0.20
			(0.27)
管理			-0.17
			(0.43)
サービス			-0.11
			(0.31)
保安			-0.87
			(1.01)
マニュアル			0.37
			(0.31)
代入したデータセットの数	20	20	20
N	952	952	952
\(R^2\)	0.03	0.07	0.08
調整 \(R^2\)	0.02	0.06	0.06
^*p < 0.001; ^p < 0.01; ^*p < 0.05

まとめ

制服を着て仕事をする人は少しだけだが有意に権威主義的になる
上司と同じような服でも権威主義的にはならないが、上司がスーツを着ていると部下は権威主義的に
上司に外見をチェックされていると感じている人は少しだけだが有意に権威主義的に

議論

外見に関して厳しく統制されている職場で働くと権威主義的になる、という結果
外見自己評価が高い人や髪にお金や時間をかけている人は権威主義的な傾向（意外）
外見チェックや髪は因果の向きが逆かも？

文献

Adam, Hajo, and Adam D. Galinsky. 2012. “Enclothed Cognition.” Journal of Experimental Social Psychology 48(4):918–25. doi: https://doi.org/10.1016/j.jesp.2012.02.008.

Civile, Ciro, and Sukhvinder Obhi. 2017. “Students Wearing Police Uniforms Exhibit Biased Attention Towards Individuals Wearing Hoodies.” Frontiers in Psychology 8. doi: 10.3389/fpsyg.2017.00062.

Frank, Mark G., and Thomas Gilovich. 1988. “The Dark Side of Self-and Social Perception: Black Uniforms and Aggression in Professional Sports.” Journal of Personality and Social Psychology 54(1):74.

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Honaker, James, Gary King, and Matthew Blackwell. 2011. “Amelia II: A Program for Missing Data.” Journal of Statistical Software 45(7):1–47.

Ishii, Kunio, Makoto Numazaki, and Yoshika Tado’oka. 2019. “The Effect of Pink/Blue Clothing on Implicit and Explicit Gender-Related Self-Cognition and Attitudes Among Men.” Japanese Psychological Research 61(2):123–32. doi: https://doi.org/10.1111/jpr.12241.

Kodžoman, Duje. 2019. “The Psychology of Clothing: Meaning of Colors, Body Image and Gender Expression in Fashion.” Textile & Leather Review 2(2):90–103.

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Slepian, Michael L., Simon N. Ferber, Joshua M. Gold, and Abraham M. Rutchick. 2015. “The Cognitive Consequences of Formal Clothing.” Social Psychological and Personality Science 6(6):661–68. doi: 10.1177/1948550615579462.

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太郎丸博., ed. 2022. 美的労働に関する調査報告書. 京都大学文学部社会学研究室.

高橋将宜, and 渡辺美智子. 2017. 欠測データ処理. 東京: 共立出版.

制服は労働者を権威主義的にするか？ 美的労働と社会意識