小中学校8年間の学力偏差値推移とクラスサイズ

山森他 (2022), 山森 (2023)で示された知見のまとめ

山森光陽 (国立教育政策研究所総括研究官) 2023年8月

Summary table
Table 1
結果の概要
小1 小2 小3 小4 小5 小6 中1 中2 中3
国語 学習開始
クラスサイズによる学力偏差値差なし
クラスサイズが大きい方が学力偏差値がより低く推移 クラスサイズによる学力偏差値の推移の違いなし (データなし)
社会 学習開始
(データなし)
クラスサイズによる学力偏差値あり クラスサイズの影響なし 小中移行時のクラスサイズが大きい方が学力偏差値がより低く推移 (データなし)
理科 学習開始
(データなし)
クラスサイズによる学力偏差値あり クラスサイズの影響なし 小中移行時のクラスサイズが大きい方が学力偏差値がより低く推移 (データなし)


2012年度小学校入学児童の,小学校第1学年終了時から中学校第2学年終了時の8年間の学力偏差値を個別に結合したパネルデータを用いて,小学校で在籍した学級のクラスサイズ,小中移行時に経験した在籍学級のクラスサイズ差(小学校で在籍したクラスサイズとの和をとると中学校で在籍した学級のクラスサイズとなる)による,学力偏差値推移の違いを検討する研究を行った。この結果は,小1から小5の国語については山森 (2023),小4から中2の国語,社会,理科については山森他 (2022)として出版された。このサマリーでは,これら2本の論文で示された知見をまとめ,小中学校8年間の学力偏差値推移とクラスサイズとの関係を示す。

データ

山形県の2012年度小学校入学児童の標準学力検査で得られた学力偏差値のデータ。山森 (2023) で分析対象とした学力偏差値は,当該学年内容の冊子を学年末(3月),または下学年内容の冊子を次学年始(4月)に実施した検査で得られたものであった。山森他 (2022) で分析対象とした学力偏差値は,当該学年内容の冊子を学年末(3月)に実施した検査で得られたものであった。対象は,山森 (2023) では小学校第1学年から第5学年まで在籍学年の学級数に変動が生じなかった学校,山森他 (2022) 小学校第1学年から第6学年まで,及び,中学校第1,2学年の在籍学年の学級数に変動が生じなかった学校の,欠測のない児童とした。その他の概要はTable 2 の通り。

Table 2
データの概要

論文 学年 教科 対象学校数 山形県学校数 対象児童生徒数 山形県
児童生徒数
山森 (2023) 小1-5 国語 129 253 4,583 9,143
山森他 (2022) 小4-中2 国語 140小学校
66中学校
249小学校
96中学校
5,171 8,944
山森他 (2022) 小4-中2 社会 105小学校
53中学校
249小学校
96中学校
4,109 8,944
山森他 (2022) 小4-中2 理科 137小学校
65中学校
249小学校
96中学校
4,994 8,944

注) 時期によって学校数が異なる。山森 (2023) は2016年度,山森他 (2023) の小学校は2017年度,中学校は2019年度の数である。

モデル

小学校第1学年終了時から第5学年終了時にかけての4年間 (山森, 2023),または,小学校第4学年終了時から中学校第2学年終了時にかけての4年間 (山森他, 2022) の児童生徒個別の学力偏差値の推移にクラスサイズが影響することを仮定したマルチレベルモデル。

結果

国語: 小1から中2

小学校から中学校にかけての,国語の学力の相対的な位置(学力偏差値)は,小学校第1学年終了時には,クラスサイズによる違いは見られないが,これ以降,小学校高学年になるあたりまで,学力偏差値の推移にクラスサイズが影響する。中学校でのクラスサイズの影響は見られない。


学力偏差値推移のクラスサイズによる違いは,小1から小5までがFigure 1, 小4から中2までがFigure 2のとおりであった。

小1から小5で見ると

  • 小1終了時点でのクラスサイズによる学力偏差値差は見られない。
  • 小1終了時以降,小5終了時にかけての学力推移にクラスサイズが影響する。
    • クラスサイズ±10±で,1年間の学力偏差値が±0.13ずつ変動。

小4から中2で見ると

  • 小4終了時点で,クラスサイズによる学力偏差値差が見られる
    • クラスサイズ±10人で,学力偏差値が±0.83異なる。
  • 小4終了時以降の学力推移には,在籍クラスサイズは影響しない。
  • 小中移行時に在籍学級のクラスサイズが増減することも,学力推移には影響しない。

Figure 1
小1から小5までの国語の学力偏差値推移のクラスサイズによる違い

Figure 2
小4から中2までの国語の学力偏差値推移のクラスサイズによる違い

社会: 小4から中2

小4から中2にかけての,社会の学力の相対的な位置(学力偏差値)は,小4までのクラスサイズによって違いが見られる。さらに,小中移行時の在籍学級のクラスサイズの変動によって,中学校以降での学力偏差値の推移に違いが見られる。


学力偏差値推移のクラスサイズ,及び,小中移行時に経験した在籍学級のクラスサイズ差による違いは,Figure 3のとおりであった。

  • 小4終了時点で,クラスサイズによる学力偏差値差が見られる
    • クラスサイズ±10人で,学力偏差値が±1.32異なる。
  • 小中移行時の,学年生徒数と在籍学級のクラスサイズの変動が,中学校以降の学力推移に影響する。
    • 小中移行時に学年生徒数50人増の場合,在籍学級のクラスサイズの変動が±10人で,1年間の学力偏差値が±0.23ずつ変動。
    • 小中移行時に学年生徒数100人増の場合,在籍学級のクラスサイズの変動が±10人で,1年間の学力偏差値が±0.73ずつ変動。

Figure 3
小4から中2までの社会の学力偏差値推移のクラスサイズ,小中移行時のクラスサイズ差による違い(中学校で学年生徒数が50人増えた場合)

理科: 小4から中2

小4から中2にかけての,理科の学力の相対的な位置(学力偏差値)は,小4までのクラスサイズによって違いが見られる。さらに,小中移行時の在籍学級のクラスサイズの変動によって,中学校以降での学力偏差値の推移に違いが見られる。


学力偏差値推移のクラスサイズ,及び,小中移行時に経験した在籍学級のクラスサイズ差による違いは,Figure 4のとおりであった。

  • 小4終了時点で,クラスサイズによる学力偏差値差が見られる
    • クラスサイズ±10人で,学力偏差値が±0.95異なる。
  • 小中移行時の,学年生徒数と在籍学級のクラスサイズの変動が,中学校以降の学力推移に影響する。
    • 小中移行時に学年生徒数50人増の場合,在籍学級のクラスサイズの変動が±10人で,1年間の学力偏差値が±0.74ずつ変動。
    • 小中移行時に学年生徒数100人増の場合,在籍学級のクラスサイズの変動が±10人で,1年間の学力偏差値が±1.24ずつ変動。

Figure 4
小4から中2までの理科の学力偏差値推移のクラスサイズ,小中移行時のクラスサイズ差による違い(中学校で学年生徒数が50人増えた場合)

引用文献

  • 山森光陽 (2023). クラスサイズによる小学校第1学年から第5学年終了時までの国語の学力偏差値推移の違い 教育学研究, 90(2), 273-284.
  • 山森光陽・草薙邦広・大内善広・徳岡 大 (2022). クラスサイズ及び学校移行に伴うクラスサイズの変化が小学校第4学年から中学校第2学年までの国語,社会,理科の学力偏差値推移に与える影響 発達心理学研究, 33(4), 391-406.